「グロテスク」
『あなたもあたしも同じ。和恵さんも同じ。皆で虚しいことに心を囚われていたのよ。他人からどう見られるかってこと』
「グロテスク」桐野夏生著(文藝春秋) ISBN:9784163219509 (4163219501)
昼は一流企業勤務、夜は街娼。淀みの底で命を落とした女性と、彼女を取り巻く人々のモノローグ。
題材になっている事件は、参考文献にもある「東電OL殺人事件」(佐野眞一著)などで、あまりに有名。女性心理や冤罪の疑惑について、いろいろと語られてきた。そのうえ小説のなかの登場人物はみな、徹底して救いがないというか、出口がない。2001年から2002年の連載中に週刊文春で読んだという知人の男性は、ひとこと「胸が悪くなった」と感想を漏らしていた。
だが今回、500ページ以上の厚さを案外、苦にせず読んだ。確かに暗いし後味も最悪だが、気分はむしろ淡々としていた。かなり覚悟していたせいなのか。間違いなく言えるのは全編を通して、何かを解き明かそうとか、女性に共感しようとか社会を非難しようとか、そういう「狙い」があまり感じられなかったということ。
容貌、優秀さ、豊かさ、理想のライフスタイル。そういう足枷って、実はありふれたものではないか。これだけの異様さをしつこく描きながら、「普通」という強靱な軸を感じさせる。この作家の並々ならぬタフさを、改めて思う。泉鏡花文学賞受賞。(2008・1)
「グロテスク」桐野夏生 本を読む女。改訂版
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