「秋の牢獄」
ぼくたちの本体はとっくに先に進んでいて、ぼくたちは本体が、十一月七日に脱ぎ捨てていった影みたいなものじゃないのか。世界は毎日、先へ進むたびに、その時間に影を捨てていくのかもしれない。
「秋の牢獄」恒川光太郎著(角川書店) ISBN:9784048738057 (4048738054)
「閉じこめられる」を共通の主題とする、幻想小説3編を収録。同じ十一月七日を繰り返す人々を描いた表題作、ふと足を踏み入れた古びた民家を出られなくなる「神家没落」、不思議な力を持つ女性が新興宗教の教祖として軟禁される「幻は夜に成長する」。
簡潔な筆致で、日常生活の地続きにさりげなく異界を描く。一貫して、思いがけず奇妙な目に遭ってしまう主人公の一人称で綴っているのだが、その主人公がみな、なんとなく体温が低い感じ。
人間の憎しみや残虐さがむき出しになるシーンもあって、そういうところはホラーなのだけれど、この主人公のキャラクターのせいか、総じて印象が静かだ。そのために恐ろしさよりも孤独とか虚無、あるいは諦念のような感覚が読後に残る。
個人的には日本各地に現れては消える、さまよう家のイメージが、「なんだかありそう」で好みだった。大人のおとぎ話。装画・ミヤタジロウ、装丁・片岡忠彦のカバーがイメージを喚起して美しい。(2007・12)
恒川光太郎『秋の牢獄』 どこまで行ったらお茶の時間
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