「H5N1」
日本の感染症に対する危機意識は、あまりにも低い。これだけ科学が進み、新型発生の機序が見えている中で「実際に発生する頃にはもう少し弱毒化しているだろう」とか「日本に入るまでには時間的余裕があるだろう」といった、科学的な根拠のない、楽観的な予測の下に、政府や監督官庁、自治体そして国民までもが、ちょっと遅れで対応する。それぞれに努力はしていても、この甘さ、ちょっと遅れが積み重なるとFatal Delay(致命的な手遅れ)が生じるのである。
「H5N1」岡田晴恵著(ダイヤモンド社) ISBN:9784478002407 (4478002401)
最近、関連書籍を精力的に執筆している国立感染症研究所の現役研究者が、パンデミック(大流行)を警告するシミュレーション小説。
正直にいうと、強毒性新型インフルエンザの猛威というのは、あまりピンとこない。専門家のシミュレーションに、かつての2000年問題の「拍子抜け」を思い出してしまうのは、素養のなさ故だろうか。
しかし提起される自治体や企業の「備え」については、地震その他の天災と重なるものがあると感じた。インフラやビジネスの継続性、そして高齢者らを含めて皆が生き残るためのコミュニティーの力とはどういうものなのか。大げさでなく歴史を眺めれば何度も、人類はこうした危機に直面してきた。いま何ができるかを考えることは、決して無駄ではない。(2007・11)
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