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December 28, 2007

2007年ベスト

とりあえず07年のマイベストを記録。暇だった割にあまり読破数が多くないですが。フィクションは、

1、「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著
2、「蒼穹の昴」「中原の虹」浅田次郎著
3、「有頂天家族」森見登美彦著
  「鹿男あをによし」万城目学著

1位は06年の発行ですが、とにかく圧倒的に面白かった! そして2位は今年の個人的な読書テーマ、「中国」の中からシリーズものを。夏に、観光ですが初めて中国に足を踏み入れたのを記念して。スケールと人物観に読み応えがあった。3位は「鹿」VS「狸」を同着で。お二人とも、今年出会ってとても嬉しかった作家だし、まさに旬な感じで話題がいろいろ盛り上がっていくのも、わくわくした。

ノンフィクションはさらに少ない冊数からですが、

1、「星新一 一〇〇一話をつくった人」最相葉月著
2、「ヤバい経済学」スティーブン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー著
3、「反転」田中森一著

やっぱり1位が「人選の妙」で印象的。こんなに著名な人の評伝なのに、発掘感があるのがすごい。2位と3位はまあ、話題作ですね。

それにしても、今振り替えると本当に読んでない。週末に結構外出していたからか。年明けから、ブロガーの皆さんの07年ベスト本などを順次読んでいくのが、楽しみです…(2007/12)


「ウインクで乾杯」

「眼鏡にかなうためには、いろいろと大変なのよ。ねえ、あなたクラシックに詳しい?」
「全然詳しくない」
「音楽は何を聴くの? 刑事だから、やっぱり演歌?」
「どうして刑事だったら演歌なんだよ。俺はだいたい、若い女性ロックが好きなんだ。特に好きなのは、『プリンセス・プリンセス』だな」

「ウインクで乾杯」東野圭吾著(祥伝社文庫)  ISBN:9784396322632 (4396322631)

コンパニオンとして働く女性がホテルの一室で、毒入りビールを飲んで命を絶つ。仕事仲間の小田香子と、若い刑事の芝田は自殺説に疑問を感じ…。

積読の山のなかから思いついて、古い文庫を手にとった。88年新書判で出た「香子の夢」の改題。88年といえばデビューから3年。相当初期だ。裏表紙には「ミステリー界の若き騎手が放つ」と書いてあって、人気作家の歴史を感じさせる。

内容は軽妙で、よくできた2時間ドラマのよう。密室や、隠されたメッセージなどの謎解きがきちんと入っている。加えて、ヒロイン香子の描き方に著者の「達者さ」の片鱗がみえる。香子はコンパニオンの仕事で知り合う男性との「玉の輿婚」を狙っていて、気に入られようと無理して男性が好きなクラシックを学んだりする打算的な女性。それでいて言動がさばさばしていて、同僚に友情を感じて涙する一面もあり、憎めない感じがする。刑事の芝田との掛け合いも、いいテンポで爽やかだ。

東野作品はこれまでかなり読んでいる。順次感想を書いて整理したいけど、なかなか手が回らないなぁ… (2007・12)

December 24, 2007

「秋の牢獄」

 ぼくたちの本体はとっくに先に進んでいて、ぼくたちは本体が、十一月七日に脱ぎ捨てていった影みたいなものじゃないのか。世界は毎日、先へ進むたびに、その時間に影を捨てていくのかもしれない。

「秋の牢獄」恒川光太郎著(角川書店)  ISBN:9784048738057 (4048738054)  

「閉じこめられる」を共通の主題とする、幻想小説3編を収録。同じ十一月七日を繰り返す人々を描いた表題作、ふと足を踏み入れた古びた民家を出られなくなる「神家没落」、不思議な力を持つ女性が新興宗教の教祖として軟禁される「幻は夜に成長する」。

簡潔な筆致で、日常生活の地続きにさりげなく異界を描く。一貫して、思いがけず奇妙な目に遭ってしまう主人公の一人称で綴っているのだが、その主人公がみな、なんとなく体温が低い感じ。

人間の憎しみや残虐さがむき出しになるシーンもあって、そういうところはホラーなのだけれど、この主人公のキャラクターのせいか、総じて印象が静かだ。そのために恐ろしさよりも孤独とか虚無、あるいは諦念のような感覚が読後に残る。

個人的には日本各地に現れては消える、さまよう家のイメージが、「なんだかありそう」で好みだった。大人のおとぎ話。装画・ミヤタジロウ、装丁・片岡忠彦のカバーがイメージを喚起して美しい。(2007・12)

恒川光太郎『秋の牢獄』  どこまで行ったらお茶の時間


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December 22, 2007

「中原の虹」

 あんたみたいに立派な貧乏人は、どこを探したっていやしない。強いわけさ。世の中の金持ちが束になってかかってきたって、こんな立派な貧乏人にかなうわけないだろ。
 あたしはもう、あんたを憐れまない。だからあんたも、あたしを憐れまないで。

「中原の虹」浅田次郎著(講談社)  ISBN:9784069367359 (4069367357)

「わが勲は民の平安」ーー。中原を目指す馬賊の頭目、張作霖と、辛亥革命前後の動乱の中国。

「蒼穹の昴」に続く大河小説、箱入り全4巻セットを怒濤の一気読み。趙爾巽の「清史稿」執筆過程とからめて、張作霖の物語の間に清王朝の祖の物語を挟み込み、合わせ鏡のように両者を描いていく。いずれも凍てつく北の大地、満州から闘いを挑み、はるか長城を越えて歴史を動かす英雄だ。まずそのスケールの大きさ、活劇の躍動感に圧倒される。

中盤でついに清王朝が倒れ、魅力的な「悪女」西太后の命運も尽きる。新王朝時代の絢爛豪華な故宮が舞台のうちは、ロマンチックな気分で読み進められるが、革命後は物語が一気に現代に引き寄せられる。そこには日本人も深く関わっているから、読みながらやや息苦しくなる感じは否めない。題材となっている史実にも立場によって、いろいろな解釈が成り立つのだろうと思う。

とはいえ、それはさておき、と思って楽しめるのが小説の醍醐味。前作から引き続いて、複雑に絡み合う人物一人ひとりの造形が見事だ。後半、西太后に代わって物語を引っ張る役者は袁世凱。ふてぶてしいまでの強運と、俗物ぶりが何ともいえないユーモアを醸し出す。本人には時代を背負う悲壮な覚悟はみじんもないのに、やっぱり列強に国が切り刻まれるのを座視できず、体を張ってしまう。

いくつかある物語の山場、まさに歴史的瞬間に多用される、登場人物の長いモノローグも効果的だ。例えば隠棲先から期せずして表舞台に舞い戻る袁世凱を、皮肉な思いを噛みしめつつ徐世昌が出迎えるシーン。駅頭の歓声がバックグラウンドに後退し、徐世昌の独白に合わせてスローモーションになる映像が鮮やかに目に浮かぶ。盛り上がるなー。

運命に翻弄されつつ、前に進むしかない人間のちっぽけさ、はかなさ。そして決して聖人ではない登場人物たちが、内に秘めている不屈の精神、強い心。歴史は常に皮肉だけれど、皇帝から馬賊の女房までが等しくもつ、それぞれの「気概」が読む者の胸を高鳴らせる。物語は、まだまだ続きそうだ。吉川英治文学賞受賞。(2007・12)

 中原の虹 第四巻    読み人の言の葉

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December 06, 2007

「その日」

「惚れて惚れぬいた女が、信ちゃんを思うあまり、なにもかもうち捨てて守りにきたんだよ。冥利に尽きようぜ。ここは黙って、守ってもらうのが男だと思うがな」
「参った。ぐうの音も出ないや」

「その日」杉本章子著(文藝春秋) ISBN:9784163264004 (4163264000) 

幕末の江戸を襲った安政の大地震。呉服太物店美濃屋の若旦那、信太郎と許嫁おぬいを取り巻く「その日」前後の人模様。

「信太郎人情始末帖」シリーズの6作目。実はシリーズと気づかずに初めて読み、人間関係を飲み込むのにちょっと苦労したのだけれど、それがさほど気にならないくらいに、丁寧な筆致にぐっと引き込まれた。

姑に何かと辛くあたられても、信太郎を思い抜くおぬい。誠意のない商人に毅然と立ち向かい、筋を通す信太郎。十歳の子どもに至るまで、登場人物が皆健気だ。市井の人々の、静かな覚悟がすがすがしい。

地震という特大のクライマックスはあるものの、全体にはむしろ淡々として、余白の多い文章。会話を主体に、少ない「説明」で、きちんと登場人物それぞれの心の揺れを伝える。愛おしいから腹が立ち、腹が立つけど愛おしいーー。

喜怒哀楽は裏表。もしかすると、近頃よく聞く「手軽に泣ける本」の対極に位置する一冊かもしれない。できればこういう風に、感情を噛みしめて暮らしたいものだなあ、なんて思ってしまう。黒地に百合の装丁も粋。(2007.12)

義理と人情!それは古くて新しい ~推薦本vol.15  日々これ精進

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December 05, 2007

「H5N1」

日本の感染症に対する危機意識は、あまりにも低い。これだけ科学が進み、新型発生の機序が見えている中で「実際に発生する頃にはもう少し弱毒化しているだろう」とか「日本に入るまでには時間的余裕があるだろう」といった、科学的な根拠のない、楽観的な予測の下に、政府や監督官庁、自治体そして国民までもが、ちょっと遅れで対応する。それぞれに努力はしていても、この甘さ、ちょっと遅れが積み重なるとFatal Delay(致命的な手遅れ)が生じるのである。

「H5N1」岡田晴恵著(ダイヤモンド社)   ISBN:9784478002407 (4478002401)

最近、関連書籍を精力的に執筆している国立感染症研究所の現役研究者が、パンデミック(大流行)を警告するシミュレーション小説。

正直にいうと、強毒性新型インフルエンザの猛威というのは、あまりピンとこない。専門家のシミュレーションに、かつての2000年問題の「拍子抜け」を思い出してしまうのは、素養のなさ故だろうか。

しかし提起される自治体や企業の「備え」については、地震その他の天災と重なるものがあると感じた。インフラやビジネスの継続性、そして高齢者らを含めて皆が生き残るためのコミュニティーの力とはどういうものなのか。大げさでなく歴史を眺めれば何度も、人類はこうした危機に直面してきた。いま何ができるかを考えることは、決して無駄ではない。(2007・11)

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