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November 23, 2007

「楽園」

「おかしな絵だったので、ハイ、わたし訊きました。これはどんな絵なのって。そしたら等、言いました」
 --お母ちゃん、これ、悲しいでしょ。この女の子は悲しいんだよ。ここから出られなくて、ずっとずっと独りぼっちだから。

「楽園」宮部みゆき著(文藝春秋)    ISBN:9784163262406 (4163262407)  ISBN:9784163263601 (4163263608)  

「模倣犯」から9年。フリーライター前畑滋子のもとに、事故死した12歳の男の子、等が残した絵について調査の依頼が舞い込む。それは、少年が見たはずのない事件の現場を描いていた。

2005年から2006年にかけて連載された新聞小説。サイコメトラーや、16年もの「死体との同居」といった劇的な舞台装置は揃っている。しかし、決して派手な印象はない。上下巻約750ページを費やしてじっくりと書き込まれているのは、端役に至るまで一人ひとりの外見、人柄、そして他人には話したくない「それぞれの事情」だ。筆致はあくまで地道で、手抜きがない。
この膨大な力技があるから、平凡な人々を巻き込んだ悲劇が実感をもって伝わってくる。特に、事実を発掘していく滋子の取材シーン、相手に向き合うときの注意深い観察ややりとりが、なんとも緻密だ。

全編を通じて、様々な「母」の横顔が胸に残る。境遇はいろいろだけれど、総じてあまり幸福ではない。我が子と心が離れてしまったり、死なせてしまったり。特に終盤、真新しい校章が象徴する、母だからこその強さと悲しさが、切なく、やりきれない。
安易なハッピーエンドではないが、読後に息苦しさは残らない。思い出のなかで語られる、不思議な絵を残した少年の存在が大きいのだろう。彼の無垢な優しさが、ずっと物語の底に流れている。生真面目に犯罪を描きながらも失われない、普遍的で温かい視点が、この作家の魅力だと改めて思う。(2007・11)

楽園:宮部みゆき  ミステリの部屋

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