「映画篇」
「夜の川って怖いよね」僕は川面を見ながら、言った。「いつゴジラが出てきてもおかしくないように見えるよね」
龍一は慌てて上半身を起こし、川面をじっと見つめた。
「ほんとだ。すげぇ、こえー」
龍一はそう言って、楽しそうに足をばたつかせた。そして、いったん堤防を下り、手のひらの大きさほどの石を近くから拾ってきたあと、出て来いゴジラ! と叫びながら、川に向かって石を思い切り投げた。
「映画篇」金城一紀著(集英社) ISBN:9784087753806 (4087753808)
映画をテーマにした連作。夏休みの最後の日、ある町の区民会館で開かれた「ローマの休日」上映会で交錯する人間模様。
ドラマ「SP」の脚本で、また話題をまいている作家の書き下ろしを読む。そういえば子供のころ、初めてまともに映画館で観たのは「ロッキー」だった。読み進むうち、大きなスクリーンで観た、あの「負け試合」の感動が蘇ってきた。友だちに夜中に電話して、好きな映画について夢中で話す。連作全体に流れる、そんなストレートでくすぐったい感触が、まず魅力的だ。
若者の逃避行から家族愛まで、1作ごとに設定はいろいろ。ストーリーとしては、「甘い」といえるかもしれない。でも、登場人物の誰もが、何かに向かって闘おうとし始めているから、読後感が明るい。「GO」を読んだとき、「僕は勉強ができない」(山田詠美著)と並んですべての中学生の必読書だと思ったものだけど、1968年生まれで、みずみずしさが全く衰えていないのは、すごいことではないいだろうか。自転車に乗るシーンが目立つのも、いい感じだ。
それにしても、ブロガーが皆さん触れているのは、作中で繰り返し出てくる「有名な賞をとっているけど、ものすごくつまらないフランス恋愛映画」。何だろう? 観たいとは思わないけれど、気になる… (2007.11)
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TBありがとうございました。
「有頂天家族」にTBさせていただきました。
TBいただけたらうれしいです。
Posted by: 藍色 | November 22, 2007 01:42 AM