「烈風」
強情に歯を食いしばったクリスが九一九ヘクトパスカルでゆっくりと左に回り、わずかずつ下降した……さらに下がった……九一九で機首を安定させ、私は息を殺していた……
九一八に達した瞬間に、私たちは雲から明るい陽光の中に出た。
「烈風」ディック・フランシス著(ハヤカワ文庫) ISBN:9784150707392 (4150707391)
気象予報士のペリイは、アマチュアパイロットの同僚と共に、ハリケーンの「目」の中を飛ぶ冒険に挑む。そのチャレンジ飛行は、意外な陰謀への扉だった。
お馴染み競馬シリーズの長編37作目。前半に起こるトラブルが、疑惑の発端になると同時に、終盤近くなって主人公が危うく難を逃れるシーンの伏線になっており、そのあたりの仕掛けの堅実さはいつも通りだ。
だが、どうも今回は、うまく乗れないまま読み終わってしまったというのが、正直なところ。自分でも原因がよく分からないのだが、珍しい結核とか、謎の「当局」の人物とかの存在が、わかりにくかった気がする。
なにしろ、37作目である。第1作の刊行が62年。もうそれだけで人生を感じる。長いシリーズの読者としては、1作ごとの魅力を味わうのも楽しみだけれど、読むことでなにかを見守っている気分がしている。菊池光訳。(2007・10)

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