「黒い陽炎」
「『県議会百条委員会が証言を必要とするのなら、行ってありのままを証言しなさい』と町長が送り出してくれた。いかん事はいかん、証言に立ったのはその思いだけです」
取材班に対し、幹部職員はそう振り返った。が、プレッシャーたるや相当なものだったに違いない。
「黒い陽炎」高知新聞編集局取材班著(高知新聞社) ISBN:9784875033219 (4875033214)
「ミスター県庁」と呼ばれた実力副知事らが、12億円もの背任容疑で起訴された高知県庁の闇融資事件(07年8月に実刑確定)の記録。平成13年度新聞協会賞受賞した平成12年3月からおよそ1年半にわたる報道をまとめた。
だいぶ前に知人に聞いて、気になっていたノンフィクションを読む。スクープをきっかけにしているが、衝撃の事実をえぐり出したといった気負いは感じられない。議会の追及、県警の捜査、そして公判。むしろ淡々と経緯を記していく。
実際のところ、この事件には、県知事を除けば著名人が登場するわけでもなく、複雑怪奇な悪事の仕掛けが繰り広げられるわけでもない。県民でない読者からみれば、確かに被害の巨額さなどで常軌を逸してはいるが、どこか「ありふれた」感じさえしてしまう。
だからこそ、怖いのだと思う。「今までもそうしてきたから」「前例を逸脱すると、ややこしいことになるから」…。きっかけはそういう、ありがちな思考回路、行動パターンなのだ。様々な地域、組織で、日常と隣り合わせのところに罠は潜んでいるのだろう。(2007・9)
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