「蒼穹の昴」
それでも、わしは信じたいのじゃよ。この世の中には本当に、日月星辰を動かすことのできる人間のいることを。自らの運命を自らの手で拓き、あらゆる艱難に打ち克ち、風雪によく耐え、天意なくして幸福を掴みとる者のいることをな
「蒼穹の昴」1~4 浅田次郎著(講談社文庫) ISBN:9784062748919 (4062748916)、9784062748926 (4062748924)、9784062748933 (4062748932)、9784062748940 (4062748940)
清朝末期、維新派官僚の梁文秀と、極貧から身を起こした宦官、李春雲の激動の人生。
ブロガー絶賛の歴史ロマン。今年は個人的に、「中国」が読書テーマの一つでもあり、真夏の紫禁城などを思い浮かべながら夢中になって読み切った。
導入部分は、「科挙」と「宦官」というこの国独特の制度の過酷さに、いささか辟易とする。しかし、その「過剰さ」があるからこそ、運命が激しく動き出してからの登場人物の行動が切実に感じられるのだろう。
改革の志に燃える若者たち、真意を語らず希代の悪役を引き受ける西太后、老練の軍人、戊戌政変を見つめる外国人記者ーー。歴史上の人物を緻密に組み合わせ、伏線を張りめぐらす見事な群像劇。なかでも最大の登場人物は、やはり崩壊を目前にした「清国」そのものだろう。四億の民を抱え、歴史と現実の重みにすさまじい断末魔の叫びをあげながら、ゆっくりと崩れ落ちる。大国の咆哮の前に、個々の人間はあまりに無力だ。
それでも人は、もがくのだ。何が「天命」なのかなんてわからない。圧倒的な虚しさにとらわれながらも、運命を拓こうとする姿が感動を呼ぶ。そうして、梁啓超という一人の人間の思想が、毛沢東へと響いていく。
それにしても、どうしてこうも人物造形が魅力的なのか。例えば終盤、怒濤の革命劇の中でひとり呑気な貴族の載沢。ひょうひょうとして、危機感の薄いお坊ちゃまのお人好しにみえながら、実はすべてを飲み込み、歴史の裏側で重要な役割を果たす。そんな懐の深さが、中国という存在、そして長編を飽きさせないこの小説の誘引力だろう。(2007・8)
今年NO.1 読書感想文的書評
浅田次郎 「蒼穹の昴」 さまよえるオランダ人…私
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