「終の棲家」
麻倉智子の目の光は揺るがない。化けたな……。的川は麻倉の変化を喜んでいる自分に気付いた。なぜ自分が取材をするのか、しなければならないのか。その理由が身にしみてわかったとき、若手の顔つきは記者のそれになる。変化の瞬間に立ち会えるのが、デスクやキャップなどという割の合わない仕事をするうえでの唯一の喜びだ。
「終の棲家」仙川環著(角川春樹事務所) ISBN:9784758432870 (4758432872)
学歴とプライドと靴のヒールが高いだけで、能力なしの烙印を押された社会部記者の麻倉智子。しかし取材した高齢者が次々と孤独死し、「事件」の最前線にのめり込んでいく。
ハルキ文庫の書き下ろし。時事性のある高齢者医療と介護問題を主題にしたミステリーだ。謎解きに引っ張られるというよりも、社会的なテーマを堅実にとらえていて、安心して読み進められる。
それにしても、前作「転生」にも増して、「鼻持ちならない女」の描き方が徹底した。周辺を含めた登場人物のキャラクターや、社内抗争の味付けはステレオタイプといえなくもないが、ヒロインがステレオタイプに嫌なやつであればあるほど、後半の「化けぶり」、そして人間関係の変化が痛快だ。誰も聖人君子ではない。つまらないことで人を妬んだり、自己顕示欲にかられたりする。でも、「やる時はやる」のだし、結局、そこにしか働くプライドは宿らないのだ。
特に脇役の村沢という人物の配置が心憎い。しれっと冷静で、立ち回りがうまく、「いつもうまくごまかされている気がする」のだけれど、憎めない。こういう人っているよなー、と思わせる。シンプルな書名が、ややもったいない感じ。(2007・8)
仙川環「終の棲家」ハルキ文庫 (書評ではない)
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