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August 18, 2007

「しゃばけ」

ねえ、佐助たちは何ていう妖なの? お堀の河童? それともお墓の幽霊?」
 この問いに祖父や妖達が笑っている。どうやら河童ではないようだった。
「犬神と申します」
「白沢と申します」

「しゃばけ」畠中恵著(新潮文庫)  ISBN:9784101461212 (410146121X)

江戸・京橋近くの大店の若旦那、一太郎が薬種問屋殺しに巻き込まれた。一太郎は小さいころから病弱で、しょっちゅう寝込んで半分幽閉されているような暮らしだけれど、助けてくれる者が大勢ついている。人ではない、妖(あやかし)たちが。

評判の「しゃばけ」シリーズ第一作をようやく読んだ。「若だんな、笑い事じゃぁ、ありません」。落語のような江戸言葉のリズムが心地よい。

そして摩訶不思議な妖たちがチャーミングだ。小さいころから若旦那の身近にいて、役に立とうとしたり、相手にされないとすねたりする。派手な衣裳の色男で、時に憎まれ口を叩く「屏風のぞき」や、ちょろちょろする小鬼たち。柴田ゆうの挿絵が生き生きしている。

でも、ウェブで検索してみると、犬神の伝説とか白沢(はくたく)とか、本性はかなり怖いぞ。人間の欲やこの世の悪を知り尽くしながら、素顔を隠してひっそりと生きるものたち。そんな存在に囲まれて暮らす一太郎は、世間知らずにみえて、実は芯の強さを隠し持つ。しかもまだ17歳なんだなー。

ひょうひょうとした筆致だが、なかなか一筋縄でいかない物語世界だ。(2007・8)

畠中恵「しゃばけ」    drunker's high

しゃばけ(畠中恵)  のほ本♪

「しゃばけ」畠中恵  AOCHAN-BLOG

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「探偵ガリレオ」

「面白いことを教えてやろう。アメリカで、UFOを目撃したという人の話を徹底的に分析してみたところ、九十パーセント以上が何かの見間違いであると判明したそうだ。しかもその中で最も多いのは、なんと天体をUFOと見間違えたというものだった。特に多いのは金星だが、中には月をUFOだと思ったという人間さえいる」

「探偵ガリレオ」東野圭吾著(文春文庫)  ISBN:9784167110079 (4167110075)

「予知夢」、直木賞受賞作「容疑者Xの献身」につながる〈探偵ガリレオ〉シリーズの第一短編集。ドラマ化に先立ち、ほぼ5年ぶりに再読してみた。

友人の草薙刑事が持ち込む難事件を、気鋭の物理学者、湯川学が解明する。湯川がおおっぴらにガリレオと呼ばれ始めるのは、意外にも最後の五編目。そうだったか。

探偵と銘打っているが、謎解きありき、ではない。あくまで「突然燃え上がる頭」といったメディアが飛びつきそうな怪奇現象が怪奇でも何でもないことを、科学知識を駆使して種明かしすることのほうに主眼がある。それが結果的に、犯人探しにつながる仕掛けだ。怪奇現象を生むのは、怪奇をみたいという人間の心理ーー。合理性を重んじるエンジニア出身としての、著者の面目躍如といえるだろう。
散りばめられた「理科の実験」シーンも、映像的で楽しい。このあたりは「文系」のミステリ読者に対する、著者独特のサービス精神にも思える。

だが、それだけに終わらないのが、また著者らしく、うまいところ。「予知夢」同様、それぞれ短編なので非常におさえめだが、その少ない行数の中にちらりと、犯罪に至ってしまう人間の愚かさや哀しさをにじませていて、余韻を残す。

ドラマのキャスト、福山雅治ではなく「本当」の湯川のモデル、佐野史郎さんが解説を書いているのがご愛敬。さらなる東野ブームがくると、ファンとしては嬉しいな。(2007・8)

「探偵ガリレオ」東野圭吾  本を読む女。改訂版

 探偵ガリレオ/東野圭吾   ☆読書の森☆

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「終の棲家」

 麻倉智子の目の光は揺るがない。化けたな……。的川は麻倉の変化を喜んでいる自分に気付いた。なぜ自分が取材をするのか、しなければならないのか。その理由が身にしみてわかったとき、若手の顔つきは記者のそれになる。変化の瞬間に立ち会えるのが、デスクやキャップなどという割の合わない仕事をするうえでの唯一の喜びだ。

「終の棲家」仙川環著(角川春樹事務所) ISBN:9784758432870 (4758432872)

学歴とプライドと靴のヒールが高いだけで、能力なしの烙印を押された社会部記者の麻倉智子。しかし取材した高齢者が次々と孤独死し、「事件」の最前線にのめり込んでいく。

ハルキ文庫の書き下ろし。時事性のある高齢者医療と介護問題を主題にしたミステリーだ。謎解きに引っ張られるというよりも、社会的なテーマを堅実にとらえていて、安心して読み進められる。

それにしても、前作「転生」にも増して、「鼻持ちならない女」の描き方が徹底した。周辺を含めた登場人物のキャラクターや、社内抗争の味付けはステレオタイプといえなくもないが、ヒロインがステレオタイプに嫌なやつであればあるほど、後半の「化けぶり」、そして人間関係の変化が痛快だ。誰も聖人君子ではない。つまらないことで人を妬んだり、自己顕示欲にかられたりする。でも、「やる時はやる」のだし、結局、そこにしか働くプライドは宿らないのだ。

特に脇役の村沢という人物の配置が心憎い。しれっと冷静で、立ち回りがうまく、「いつもうまくごまかされている気がする」のだけれど、憎めない。こういう人っているよなー、と思わせる。シンプルな書名が、ややもったいない感じ。(2007・8)

仙川環「終の棲家」ハルキ文庫  (書評ではない)

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August 12, 2007

「作家の値段」

古本屋はその学問を、文章ではなく本の売価で表現するのである。ちなみに『裸体と衣裳』は、「帯付きの古書価が極端に上がった本」の例に挙げられている。帯が無くカバーのみの初版本は、一万五千円で、カバー帯共に備わった初版は、十五万円である。帯一本で、これだけ値段が違うのである。

「作家の値段」出久根達郎著(講談社) ISBN:9784062140591 (4062140594)

古書店主でもある作家の「実益作家論」。司馬遼太郎、三島由紀夫から梶井基次郎まで。近代文学に詳しい古書店主、大場啓志氏とのやりとりで、意外な稀覯本や古書価を明かしていく。

もちろん単なるカタログ本ではない。古書の価格が決まるには、それだけの理由がある。出版時の事情、どれくらい売れてどういう読まれ方をしたか、そして今、どれくらい需要があるか。古書価というものを入り口にして、作家をめぐる蘊蓄やその文学の魅力を縦横に語る。

例えば樋口一葉の『通俗書簡文』を紹介したくだり。明治を代表する女流作家も、生前は恵まれず、亡くなる前に出版された唯一の著書が手紙の文例を集めた実用書というのが、まず興味深い。猫の子をもらうとか、滅多にないような設定で、「どうぞ下さりませ。必ず必ず大事がり、夜も布団に寝かし…」と、なんとも名文がつづられて、立派に小説になっているのだ。
この本は古書価としてはカバー付き、普通の保存状態で十万から十二万円というから、さほど高くはない。著書は安いが、本人が残した手紙は高くて、何百万円もするという。皮肉なものだと、著者は天才の運命に思いをはせる。

手練れの軽妙な語り口のなかに、文学と本そのものに対する深い愛情がみなぎっている。(2007・8)

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