「行動経済学」
イェンガーとジャンらはアメリカにおける退職年金制度である401(k)プランについても、選択できるファンドが多すぎるのではないかと考え、雇用者に対する広範な調査を行った。その結果、選択できるファンドが多くなると401(k)プランそのものに参加する人数が減ってしまうことを見出している。
シュワルツは、このような現象を「選択のパラドックス」と呼んでいる。
「行動経済学」友野典男著(光文社新書) ISBN:9784334033545 (4334033547)
副題は、経済は「感情」で動いている。時として人は、経済合理性に逆らう選択をする。そのメカニズムを分析する「行動経済学」の、一般向け入門書。
「最終提案ゲーム」「リンダ問題」など、経済学者たちは様々な実験を通じて人間の気まぐれな行動を読み解いていく。「ヤバい経済学」に登場したデイケア・センターの罰金の実験も出てくる。罰金を導入したのに、迎えの遅刻が増えてしまったという逸話だ。罰金をとられることでかえって、時間をお金で買う「取引」の発想が生まれ、遅刻のやましさが薄れたという分析だ。
ほかにも「リスクをとるより現在、手中にある財を守ろうとする」とか、「いきなり大金をもらうよりだんだん良くなっていくのを好む」とか、一見、損得とは逆行する選好について、分析が繰り広げられる。導かれる結論は、実はそれほど意外なものではない。「私もそういうことをするかもな」と感じる、いわば常識的な行動なのだが、そこに理論で裏付けをしていく道筋が面白い。
そもそも「誰もが冷静に物質的利益を追求し、一貫した行動をとる」という古典的な経済学の前提のほうが、とんでもないフィクションだったということだろう。本書に登場するノーベル賞学者らは心理学や生理学も動員し、こうした「常識」を「数式」に置き換えて、マーケティングや公共政策に取り込もうとする。彼らの「論理的であること」へのあくなき信念と努力が興味深い。コンパクトで読みやすく、話題のタネが満載の一冊だ。(2007・5)
行動経済学 経済は「感情」で動いている regenbogen:Mandria
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