「特捜検察VS.金融権力」
特捜検察は、ねらい撃ちが本来の姿なのである。あまたある疑惑の中から捜査対象を選び、一罰百戒で、正義の枠組みを維持する制度設計になっているのだ。刑事訴訟法191条は「検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる」と定め、これが特捜検察による独自捜査の法的根拠となっている。「必要と認めるとき」とは、犯罪を選択できるということを前提にしている。
「特捜検察VS.金融権力」村山治著(朝日新聞社) ISBN:9784022502483
(4022502487)
毎日新聞から朝日に転じ、以後、多くの経済事件を追ってきた記者がまとめたバブル崩壊後の15年史。
行政機関である検察が、「国策」に沿って権力を行使することは「当然」のことだと、まずはしっかり認識したうえで、国策と、実際に表面に表れる「事件」とがどうつながるのか、その権力構造を描いた。随所で語られる官僚たちのバックグラウンドや、個人的な親交のエピソードは興味深いものの、全編を通して浮かび上がるのは個々の人物ではなく、やはり「組織防衛」という不変の思考回路だ。結局はそれが「時代」なんだ、という結論になるのかもしれないが、大勢の名もなき人の人生が翻弄されたことを考えると、やりきれない気がしてくる。
イトマンからライブドアまで、1件だけで何冊も本を書けるぐらいの経済事件を一気に詰め込んであり、背景の掘り下げなどはやや消化不良。実際にはこうして「事件」にならず、語られなかった疑惑にこそ、権力の素顔が潜んでいるのかもしれない。冒頭に検察や大蔵省・財務省、金融庁の幹部15人の名簿と、関連年表が付いていて便利。(2007・4)
村山治「特捜検察vs.金融権力」 yabuDK note 不知森の記
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