「それからはスープのことばかり考えて暮らした」
「遠距離恋愛というやつですね」
まったくマセたガキだなぁ、と僕がため息をついたら、同じように少年もため息をついて、ジュースの残りを余さず飲みほした。
「いいなぁ、オーリィさんは」
ひとりごとのようにつぶやき、窓ごしに外の様子を眺めている。
夕方の陽の中を路面電車がゆっくり通り過ぎ、踏切で待たされていた人たちが、いっせいに夕陽を浴びながら歩きはじめた。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」吉田篤弘著(暮しの手帖社) ISBN:9784766001303
(4766001303)
大里君は失業中なのに、映画館に通って古い日本映画ばかり観ている。アパートの大家さんには、フランス風に「オーリィ君」と呼ばれている。何だか最近、近所で評判のサンドイッチ屋のことが気になって…
評判の書名なので手にとったが、内容については予備知識なく読み始めた。初めはシンプルライフをテーマにしたエッセーかと思ったけれど、それは全く違い、さらに「いい人」ばかり出てくる淡々とした小説かと思ったら、案外いろいろと事件が起こって、いい感じで裏切られながら、楽しく読み終わった。
おいしいスープの作り方、といった話題が、筋書きの中で重要な役割を果たす。私はものぐさなので、実は「丁寧な暮らしのススメ」はちょっと苦手。だけれど、この物語はライフスタイルを説く押しつけがましさは微塵もなく、程よくユーモアを含み、肩の力が抜けていて心地よい。老いも若きも男も女もそれぞれに、幾分の諦めとか、「あえて口にしないこと」とかを心に抱えている。だからこそ、この世に一つしかない巡り会いを大事にして、日々を過ごしていく。
著者はクラフト・エヴィング商會としても活動中。(2007・4)
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」吉田篤弘 本のある生活

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それからはスープのことばかり考えて暮らした
小さな町に越してきたオーリィさんは、失業中。仕事を探さなければならないのに隣町の月舟シネマに通い、「トロワ」というサンドイッチ屋のサンドイッチのとりこになって通いつめる毎日。
教会の十字架の見えるオーリィく....... [Read More]
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