「夜は短し歩けよ乙女」
電気でお酒を作るなんて、いったい誰がそんなオモチロイことを思いついたのでしょう。
私は好奇心でいっぱいになるあまり、木屋町の路上でぱちんと弾けそうになりました。
「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著(角川書店) ISBN:9784048737449
「私」は今時珍しいオクテの京大生、理系。クラブの後輩である「黒髪の乙女」に一目惚れしたのだが、「たまたま通りかかって」という偶然の出会いを求めるばかりで、なかなか親しくなれず…。
京都、夜の先斗町や下鴨神社の古本市を舞台に、謎の変人、妖怪的脇役が次々登場。追いつ追われつ、空も飛びつつの、はちゃめちゃ妄想世界。しかし最後はしっかりと周囲の人間関係がつながり、様々な小道具や台詞の伏線も生かされて、気持ちのよい純愛物語になっている。宮藤官九郎の映画を思わせる緻密なドタバタぶり。脈絡ない蘊蓄もまぶしてあり、楽しく、あっという間に読んでしまった。
懐古的な口調に、癖のある擬音が散りばめられているが、リズムがいいので鼻につかない。男女2人の視点から交互に語る形式。そのすれ違いぶりが、緊張を高める効果を生む。
しかも驚くのは、主人公2人の名前が特定されていない点。大勢の怪しい人物と会話するのに、よく混乱しないものだ。名無しの若い男女は、かたや秀才で優柔不断、かたや純情可憐で大酒飲み。アニメ風にデフォルメされているけれど、実は隣にいそうな人物造形で好感がもてる。それと、肝心の2人が知り合った「クラブ」がいったい何をするものなのかも、よくわからない。んー、気になるなあ。(2007・3)
山本周五郎賞受賞。
森見登美彦/「夜は短し歩けよ乙女」/角川書店刊 ミステリ読書録
夜は短し歩けよ乙女〔森見登美彦〕 +ChiekoaLibrary+
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