「マドンナ」
ああ、そうかーー。うまく回らない頭でうっすらと思った。本能がやめておけと言っている。総務と女房に勝ってはいけない、と。
「マドンナ」奥田英朗著(講談社文庫) ISBN:9784062752633
年甲斐のない恋心や、同い年の上司との軋轢。40代中間管理職の日常を軽やかに描くオフィス短編集。
いつもながら非常にうまい。主人公はそれぞれ「部長」が見えてきたくらいの、平凡だけどそれなりに仕事に誇りを持つサラリーマン。ばりばりの営業からキャリアパスとして、2年の「現先」で総務に移ってきた、などと、その「戸惑い」の設定がいかにもありそうで、リアルだ。
そしてどの短編も、家族が合わせ鏡になっている。何を考えているのか、自分では分かった気になっていた妻や息子、あるいは分かろうとする努力を怠ってきた、遠くに住む老親。仕事に悩んでふと目を向けたとき、自分の家庭人としての顔に気づいて、どきりとする。
彼らが選ぶカイシャでの身の振り方は、決して格好いいものとは限らない。けれど皆、真面目に生きている。(2007・3)

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