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March 25, 2007

「夜は短し歩けよ乙女」

電気でお酒を作るなんて、いったい誰がそんなオモチロイことを思いついたのでしょう。
 私は好奇心でいっぱいになるあまり、木屋町の路上でぱちんと弾けそうになりました。

「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著(角川書店)  ISBN:9784048737449

「私」は今時珍しいオクテの京大生、理系。クラブの後輩である「黒髪の乙女」に一目惚れしたのだが、「たまたま通りかかって」という偶然の出会いを求めるばかりで、なかなか親しくなれず…。

京都、夜の先斗町や下鴨神社の古本市を舞台に、謎の変人、妖怪的脇役が次々登場。追いつ追われつ、空も飛びつつの、はちゃめちゃ妄想世界。しかし最後はしっかりと周囲の人間関係がつながり、様々な小道具や台詞の伏線も生かされて、気持ちのよい純愛物語になっている。宮藤官九郎の映画を思わせる緻密なドタバタぶり。脈絡ない蘊蓄もまぶしてあり、楽しく、あっという間に読んでしまった。

懐古的な口調に、癖のある擬音が散りばめられているが、リズムがいいので鼻につかない。男女2人の視点から交互に語る形式。そのすれ違いぶりが、緊張を高める効果を生む。

しかも驚くのは、主人公2人の名前が特定されていない点。大勢の怪しい人物と会話するのに、よく混乱しないものだ。名無しの若い男女は、かたや秀才で優柔不断、かたや純情可憐で大酒飲み。アニメ風にデフォルメされているけれど、実は隣にいそうな人物造形で好感がもてる。それと、肝心の2人が知り合った「クラブ」がいったい何をするものなのかも、よくわからない。んー、気になるなあ。(2007・3)

山本周五郎賞受賞。

森見登美彦/「夜は短し歩けよ乙女」/角川書店刊  ミステリ読書録
夜は短し歩けよ乙女〔森見登美彦〕 +ChiekoaLibrary+ 

 

March 21, 2007

「マドンナ」

 ああ、そうかーー。うまく回らない頭でうっすらと思った。本能がやめておけと言っている。総務と女房に勝ってはいけない、と。

「マドンナ」奥田英朗著(講談社文庫) ISBN:9784062752633

年甲斐のない恋心や、同い年の上司との軋轢。40代中間管理職の日常を軽やかに描くオフィス短編集。

いつもながら非常にうまい。主人公はそれぞれ「部長」が見えてきたくらいの、平凡だけどそれなりに仕事に誇りを持つサラリーマン。ばりばりの営業からキャリアパスとして、2年の「現先」で総務に移ってきた、などと、その「戸惑い」の設定がいかにもありそうで、リアルだ。

そしてどの短編も、家族が合わせ鏡になっている。何を考えているのか、自分では分かった気になっていた妻や息子、あるいは分かろうとする努力を怠ってきた、遠くに住む老親。仕事に悩んでふと目を向けたとき、自分の家庭人としての顔に気づいて、どきりとする。
彼らが選ぶカイシャでの身の振り方は、決して格好いいものとは限らない。けれど皆、真面目に生きている。(2007・3)

March 20, 2007

「ヤバい経済学」

選挙では不当にもお金が決定的な役割を果たすのであり、だから政治活動には大変なお金が注ぎ込まれる。
 実際、選挙のデータを見ると、選挙中にお金をたくさん使った方の候補者が普通は勝っているというのは本当だ。でも、当選した原因はお金なんだろうか?

「ヤバい経済学」スティーブン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー著(東洋経済新報社) ISBN:9784492313657

シカゴ大の気鋭の経済学者が、ジャーナリストとの共同作業で解き明かす、世の様々な事象の裏側。昨年の話題の経済書。

犯罪から子育てまで、経済学としてはユニークな、脈絡ないテーマが並ぶ。だが視点は揺るがない。すなわち人間のあらゆる行動を支配する「インセンティブ」を測ること。何が何を引き起こしているのか? あるいは通念は本当にあるのか、ないのか? 
「相関」と「因果」を一緒くたにせず、膨大なデータを虚心坦懐に見つめる。決して耳障りの良くない、言ってしまえば「身も蓋もない」結論が目立つけれども、売り手と買い手の情報の非対称性とか、「そうだろうな」と思っていることを、身近な事例でスカッと語っている面もある。そして、良心とか希望めいたものも、決して否定はしていない。

正直言って、著者たちは頭が良すぎて、あまり友だちになりたいとは思わない感じだ。けれども、「ものの見方」を揺すられるのは、心地よい。望月衛訳。(2007・3)

174冊目 ヤバい経済学 無秩序と混沌の趣味がモロバレ書評集
書籍「ヤバい経済学」を読んで Kirkの独白

March 06, 2007

「銃とチョコレート」

 怪盗ゴディバ。彼がはじめてこの国にあらわれたのはぼくの生まれた年だった。
 ある日、貴族の屋敷から『ほほえみダイヤモンド』が消えた。かわりにトランプ大の赤いカードがのこされていた。さらに半年後、大富豪の大事にしていた『かなしみ首かざり』が金庫から消えた。うしなわれた国の王女様が身につけていた首かざりだった。金庫にはふたたびトランプ大の赤いカードがのこされていた。

「銃とチョコレート」乙一著(講談社)  ISBN:9784062705806

移民の少年、リンツは父の形見の聖書に隠された秘密の地図を見つける。怪盗ゴディバが盗んだ財宝の地図だ。怪盗を追う名探偵、ロイズとの大冒険が始まる。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」の一冊。箱に入っていて布の背表紙、ルビ付きの大きな活字。ページの角は丸くカットしてある。作り込まれた児童書の風情に、幼いころのドキドキが蘇る。怪盗、探偵。言葉の響きが、いい。

だが、だまされてはいけない。かつて子ども向けにアレンジされたバージョンで夢中になった「三銃士」。長じて文庫を読んだとき、時に陰惨なほどのエゴが描かれていて、驚くと同時に、エピソードてんこ盛りの物語性にまた驚嘆した。本作もまた、一筋縄でない影を持つ。善悪合わせもつ人の二面性、戦争や差別。けっこう深いです。

乙一著作の初体験として、良かったかどうかは、まだわからないけれど… ブロガーに評判の、イメージ豊かな挿画は平田秀一氏。(2007・2)

■銃とチョコレート 乙一  本を読んだら…byゆうき
銃とチョコレート 乙一 講談社  おいしい本棚Diary
『銃とチョコレート』 乙一  猛読酔書

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March 03, 2007

「わたしを離さないで」

「何か大事なものをなくしてさ、探しても探しても見つからない。でも、絶望する必要はなかったわけよ。だって、いつも一縷の望みがあったんだもの。いつか大人になって、国中を自由に動き回れるようになったら、ノーフォークに行くぞ。あそこなら必ず見つかる、って……」

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著(早川書房) ISBN:9784152087195

介護人キャシー・Hが回想する、謎の施設「ヘールシャム」で過ごした幼かった日々。親友ルースやトミーとのみずみずしい思い出と、そこに時おり顔をのぞかせる腑に落ちない思い、そして今。

久しぶりに翻訳ものを読んだ。ブッカー賞作家のベストセラーであり、ブロガー絶賛の大傑作。

ストーリーを要約すれば、SFなのだろう。用意周到な謎や、思わせぶりも散りばめられている。けれどもそんな筋書きよりむしろ、主人公たちのごく自然な心のひだが胸に迫る。

子供時代、付き合う人と言えば級友、教師ぐらいという狭い人間関係の中で、ちょっとしたことで癇癪をおこして後悔したり、「秘密親衛隊」のつもりになってありもしない秘密を共有してドキドキしたり。「ヘールシャム」の住人でなくても、誰にでも思い当たることだ。思えば、私たちは人生について、何もわかっていなかった… すっかり忘れていた日々を、繊細な筆致で鮮やかに思い出させてくれる。

だから最後の方では、もう「真相」はどうでもいい気がしてくる。ヘールシャムがどんな施設で、その出身者たちがどんな宿命を背負っているのか。教えてくれなくていい、せめて小さな幸せが訪れてほしい。しかし、謎は明かされてしまう。生きることはものすごく静かで、残酷だ。幼い頃に語り合った、なくしたものが何でも保存してある、伝説の町ノーフォークなんて存在しない。「受け入れていくこと」しか残されていない。

でも、もしかしたら、目をそらさずにいることぐらいはできるかもしれない… 圧倒的に切なくて、でも何故か、前を向いてページを閉じることができる。文句なく面白くて、胸にしみる名作。土屋政雄訳。(07/2)

わたしを離さないで/カズオ・イシグロ  rocketBooks 
カズオ・イシグロ【わたしを離さないで】  ぱんどら日記

2006新刊本ベスト投票結果発表。

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たらいまわし・本のTB企画 第31回「積読の山も誇りと本の虫」

たらいまわしでお題を決め、本を紹介していく「たらいまわし・本のTB企画」略して「たら本」に初参加してみます。お第は「時々、読書感想文。」菊花さんの「積読の山も誇りと本の虫」。

私はよく書店のネット通販で本を買います。ごたぶんに漏れず、皆さんのブログや新聞書評で「面白そう!」と感じると、どんどん買い込んでしまい、せっかくの本を読み切れないので、最近は少し歯止めをかけています。まず通販画面の「ウイッシュリスト」に入れ、ある程度寝かせてから「ショッピングバッグ」に移し、さらに熟成させて「注文」ボタンを押す。このプロセスが、ほんの数日の本もあれば、1カ月ぐらいの本もあるわけですが。

さて、問題はこの後。「注文状況」の画面です。「注文中」と共に、すでに私の手元に届いている「発送済」も並びます。読み始めた本から削除することにしているので、残っている本がすなわち積読リストです。1ページに50冊。できるだけ2ページ目まであふれないように、というのが、私の数年来の目標です(もちろん、これ以外に家には書店で買ったまま、顕在化していない積読もあります)。

今回、このリストを眺め直してみました。一番底に居座り続けている、栄えある本は… エマニュエル・ドット「帝国以後」。恐る恐る、注文日付を見ると… ああ、もう3年以上前ではないですか! 話題になった頃とはすっかり世界状況も変わってしまいました。ここまできたら、もっと時間をおいて、歴史として読むのが良いかも、と開き直り。

堅い本のほかには、分冊になった長めの小説が目立ちます。文庫で佐藤賢一「傭兵ピエール」、浅田次郎「蒼穹の昴」… どれも、ものすごく面白そうなのですが、読み始めるのに気合いがいる感じで。

今年は仕事関連で読む本が減りそう。よーし、どんどん消化するぞー。と、いうわけで、「ネット書店 注文日付が 目に痛い」。あ、「みそひともじ」じゃなくて川柳になっちゃいました。お粗末。

たら本31、開催中です☆  AZ::Blog

四季さんnyuさん の積読も豪華です…

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