「風が強く吹いている」
「礼を言うにはまだ早いぞ」
「すぐに行きます。待っててください」
「転ぶなよ」
と清瀬は言った。楽しそうだ。
「風が強く吹いている」三浦しをん著(新潮社) ISBN:9784104541041
不遇の天才ランナー、走(かける)が縁あって住みついたボロアパート。そこに集った10人が、学生陸上界の花形「箱根」をめざす。ブロガーの間で評判だった直木賞受賞第1作。
箱根駅伝をテレビ鑑賞するのは好きだ。ドラマがある。でも、勧められなければ、この小説は読まなかったかもしれない。ハリウッド映画なら「弱小チームのスポーツもの」は一大ジャンルだけれど、ケーブルテレビの番組表ではまずチェックしない。きっと感動すると、観る前にわかってしまう気がするから。そして、あえて身も蓋もなく言ってしまえば、この小説はそんな舞台装置も登場人物も何から何まで真っ直ぐな、友情と成長の物語だ。
ところが実際に作中でレースが始まると、ちょっと印象が違う。なぜだろう。「襷をつなぐ」という行為に重ねて、チームメイトそれぞれの個性や葛藤を語っていく。名ぜりふもある、泣かせどころもある。だが、実際のやりとりや、「思い」の発露となると結構あっさりしていて、物足りないほどだ。お互いに信頼はしても、依存しない関係。だから案外、ドライな読後感が残る。
長距離走も、そして勝手な「勘違い」をはらんだ若い惑いの日々も、根っこのところは孤独だということだろうか。かけがえのない襷でつながっていても、走っている瞬間はいつも一人という潔さ。
500ページを快調に読み進むことができて、その疾走感が心地よい。浮世絵風の装丁もおしゃれ。(2007・2)
風が強く吹いている 日々是好日
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タイトル:風が強く吹いている
著者 :三浦しをん
出版社 :新潮社
読書期間:2007/01/06 - 2007/01/09
お勧め度:★★★★★
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箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(=... [Read More]
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