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February 12, 2007

「雪屋のロッスさん」

最後に残った鳩が、栗を振り向く。おいでよ、という風に、首をかしげる。
 栗は少し考えをこらし、
「わたしはいいわ」
 朗らかにいって後ずさりしました。
「そっち行くより、街でまだすることがあるみたい。おばあさんたちによろしくいって」

「雪屋のロッスさん」いしいしんじ著(メディアファクトリー) ISBN:9784840114936

短ければ2ページに満たない短編30本でつむぐ、この世の様々な「職業」の人々。「ダ・ヴィンチ」連載の単行本化。

どれもこの作家らしい、ひとすくいの苦みが口に残る不思議な物語。思うようにはいかないけれど、どんな職業にも「誇り」はある。自分の不幸を顧みず、寒風吹く世に踏みとどまって、道行く人をほぐし続ける「マッサージが上手な」少女、「栗」のように。苦みを噛みしめつつ、ちょっと泣けてしまう。(2007・2)

雪屋のロッスさん いしいしんじ メディアファクトリー   おいしい本箱Diary

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February 10, 2007

2006年ベスト

遅ればせながら2006年ベスト。フィクションは、

1、「ゆれる」西川美和著(ポプラ社)
2、「ガール」奥田英朗著(講談社)
3、「女たちは二度遊ぶ」吉田修一著(角川書店)

そしてノンフィクションは、

1、『「へんな会社」のつくり方』近藤淳也著(翔泳社)
2、「大地の咆哮」杉本信行著(PHP研究所)
3、「迷走する家族」山田昌弘著(有斐閣) 

昨年は仕事関連で読んだものが少なくなかった。そのせいか「これぞ」という新しい出会いがなくて、物足りなかった気がする。2007年はもっと自由奔放に読むぞ!

「風が強く吹いている」

「礼を言うにはまだ早いぞ」
「すぐに行きます。待っててください」
「転ぶなよ」
 と清瀬は言った。楽しそうだ。

「風が強く吹いている」三浦しをん著(新潮社) ISBN:9784104541041

不遇の天才ランナー、走(かける)が縁あって住みついたボロアパート。そこに集った10人が、学生陸上界の花形「箱根」をめざす。ブロガーの間で評判だった直木賞受賞第1作。

箱根駅伝をテレビ鑑賞するのは好きだ。ドラマがある。でも、勧められなければ、この小説は読まなかったかもしれない。ハリウッド映画なら「弱小チームのスポーツもの」は一大ジャンルだけれど、ケーブルテレビの番組表ではまずチェックしない。きっと感動すると、観る前にわかってしまう気がするから。そして、あえて身も蓋もなく言ってしまえば、この小説はそんな舞台装置も登場人物も何から何まで真っ直ぐな、友情と成長の物語だ。

ところが実際に作中でレースが始まると、ちょっと印象が違う。なぜだろう。「襷をつなぐ」という行為に重ねて、チームメイトそれぞれの個性や葛藤を語っていく。名ぜりふもある、泣かせどころもある。だが、実際のやりとりや、「思い」の発露となると結構あっさりしていて、物足りないほどだ。お互いに信頼はしても、依存しない関係。だから案外、ドライな読後感が残る。

長距離走も、そして勝手な「勘違い」をはらんだ若い惑いの日々も、根っこのところは孤独だということだろうか。かけがえのない襷でつながっていても、走っている瞬間はいつも一人という潔さ。

500ページを快調に読み進むことができて、その疾走感が心地よい。浮世絵風の装丁もおしゃれ。(2007・2)

風が強く吹いている  日々是好日
「風が強く吹いている」三浦しをん  AOCHAN-blog

読者大賞 新刊本ベスト投票2006

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