« 「ドライブイン蒲生」 | Main | 「チーム・バチスタの栄光」 »

January 18, 2007

「名もなき毒」

 土地ってのは人間の歴史ですものねと言う。
「そこに住む人間の営みが刻み込まれてる。でも、良いことばっかりとは限らない。邪悪も染み込んでる。それが"毒"だ」

「名もなき毒」宮部みゆき著(幻冬舎) ISBN:9784344012141

今多コンツェルンの社内報編集者、杉村三郎がふとしたきっかけで出会った少女は、連続毒殺事件の遺族だった…。

著者3年ぶりの現代ミステリーをようやく読んだ。「誰か」でデビューした、影が薄くて欲のない婿殿、杉村の再登場だ。480ページを超える長編で、主役が毒殺事件に巻き込まれるのはやっと100ページあたり。新聞連載に加筆したせいか、ゆったりペースで地味ながら、お馴染みの達者な筆致で楽に読み進められる。

無差別毒殺、土壌汚染、そして心に巣くう嫉妬や嘘。すぐ隣にあるこの世の「毒」を、丁寧に描く。思えば著者は名作「火車」からずっと、憎むべき、それでいて切ない犯罪者を描いてきた。

犯人が判明してミステリが解決しても、そんな罪を招いた「毒」そのものを割り切ることはできない。決してスカッとはしないから、ちょっと物足りないという読後感もあるかもしれないが、現実の方があまりに悲惨な昨今だからこそ、割り切れない「毒」から目を背けない姿勢が印象に残る。あの、全編のたうち回るような「模倣犯」を経て、著者の現代ものは、どこか透明な域に達しつつあるように感じる。

常識人の杉村に、財界の大立て者で理解ある重厚な義父。それに今作はハンサムな若手評論家の秋山、賑やかなバイトのゴンちゃんも加わって人物の魅力が増した。意図せざる探偵、杉村シリーズはまだまだ続きそうな予感。楽しみだ。(2006・12)

宮部みゆき 『名もなき毒』  日記風雑読書きなぐり
宮部みゆき【名もなき毒】   ぱんどら日記
名も無き毒  乱読日記
「名もなき毒」宮部みゆき 読書とジャンプ
名もなき毒 宮部みゆき   粋な提案

にほんブログ村 本ブログへ

« 「ドライブイン蒲生」 | Main | 「チーム・バチスタの栄光」 »

Comments

TBさせていただきました。

久々の宮部ワールド。
ちょっと長かったですけど、堪能致しました。

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「名もなき毒」:

» 宮部みゆき【名もなき毒】 [ぱんどら日記]
宮部みゆきの現代ミステリーを新刊で買って読んだのは久しぶりだ。 いろいろなことを忘れてた。宮部みゆきの本を買うと、『大極宮』のパンフレットがはさみこまれてることとか。 (パンフレットによると大沢在昌はダイ... [Read More]

» 宮部みゆき 『名もなき毒』  もどかしさは残るが本来の宮部みゆき復活の予感 [日記風雑読書きなぐり]
犬を連れ、散歩途中の老人がコンビニで買ったウーロン茶を飲んで悶絶死した。首都圏で発生していた無差別連続毒殺事件の4人目の犠牲者か。今田コンツェルンの社内報を編集する杉田三郎はこの犠牲者の孫娘である女子高生と知り合うことから事件に巻き込まれる。いっぽう杉田の職場ではアルバイトをしていた26歳の娘をミスが多発するためにクビにしたことから、彼女の執拗、病的なクレームに編集局一同が振り回されている。彼女の異常な嫌がらせはやがて禍々しさが加わり杉田の家庭にまで入り込んでくる。 杉田三郎は女子高...... [Read More]

» 名もなき毒 [乱読日記]
宮部 みゆき 名もなき毒 [要旨] どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、連続無... [Read More]

» 「名もなき毒」宮部みゆき [読書とジャンプ]
扱うテーマは暗いものの、悪意を理解することのできない悲哀というより、理解していきたいという前向きな気持ちを感じる分、落ち込んだりすることなく読めました。どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三...... [Read More]

» 名もなき毒 宮部みゆき [粋な提案]
装幀は緒方修一。装画は杉田比呂美。北海道新聞、中日新聞、東京新聞、西日本新聞、河北新報、中國新聞に主に2005年3月1日から実質約9ヵ月連載(時期違いあり)に加筆修正、最終章書き下ろし。 主人公で語り手の杉村... [Read More]

« 「ドライブイン蒲生」 | Main | 「チーム・バチスタの栄光」 »