「ゆれる」
けれど、もし、誤ったとしても、失ったとしても、もう一度だけ手を伸ばし、声を上げるより他に、生きて自分に出来ることを、俺は今、見つけられない。
腐った板がよみがえり、朽ちた欄干が持ちこたえることはあるだろうか?
あの橋は、まだかかっているだろうか?
「ゆれる」西川美和著(ポプラ社) ISBN:9784591093030
俊英、西川美和監督が、各賞で絶賛の映画を自ら小説化。
寂れたふるさとの渓谷にかかる、一本の朽ちかけた吊り橋。不安定なその橋が、不幸な事件に見舞われた兄と弟の、愛憎の「揺れ」を静かにうつしとる。
時系列に、登場人物一人ひとりの独白をつないでいくスタイルが絶妙だ。まるで「羅生門」のように、同じなようで同じでなく、「真実」は微妙にずれていく。誰が誰を思い、誰が誰を陥れたのか。真実なんていつも、こんな風に不確かで、最後までクリアにはならないものかもしれない。
でも、兄と弟を軸に、その父と弟、幼なじみの娘とその母、スタンド従業員の妻子ら、取り巻く人それぞれの心の中にある「真実」が、胸に迫ってくる。誰しも自分が可愛いし、面倒なことは避けたいし、大切なはずの人を時に煩わしく思ったりする。それでも決して断ち切れない、いとおしさはあるのだ。
映像作家らしく、古い8ミリ映写機の伏線が鮮やか。青白い装丁も知的で美しい。映画を観なければ!(2007・1)
「ゆれる」西川美和 本を読む女。改訂版
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