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January 02, 2007

「八月の路上に捨てる」

「佐藤は目が細いから、怒ってるのか喜んでるのか、他人にはわかりづらいんだよ」
「そんなこと言ったら水城さんだってそうですよ。いっつもぶすっとしてるから」
「仲良くなったらわかるもんだろ」
「でしょう? そうなんですよ。わかるもんなのに、嫁はわかってくれなくなる」

「八月の路上に捨てる」伊藤たかみ著(文藝春秋) ISBN:4163254005

蒸し暑い八月の最終日。自販機に飲料を補充して回るドライバーの水城さんと、その助手、バイトの敦の一日をたどる。

現代の三十歳の、仕事と家族。敦は先が見えないフリーターとして働き、明日には離婚する身だ。そのつかみどころの無い感覚を、丹念に描く。真面目だし、きちんと幸せになろうとしているのだけれど、人生の確かさは、するりと手から逃げていく。

若者の心の放浪は、昔からあるものかもしれない。けれど、都会の至るところに立ち並ぶ自販機という「豊かさ」との対比がうまい。気っぷのいいシングルマザー、水城さんとの微妙な信頼関係も心地よい。淡々として軽すぎるという感想もあるだろうが、あえて気負いを排したきめ細かな独白に、作家の真摯さがのぞく気がする。第135回芥川賞受賞。

ユーモアが効いて、温かな気持ちが通う「貝からみる風景」も収録。(2006・11)

「八月の路上に捨てる」 伊藤たかみ
八月の路上に捨てる

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