「大地の咆哮」
中国の現状をたとえていえば、共産党一党独裁制度の旗の下、封建主義の原野に敷かれた特殊な中国的社会主義のレールの上を、弱肉強食の原始資本主義という列車が、石炭を猛烈に浪費しながら、モクモクと煤煙を撒き散らし、ゼイゼイいいながら走っているようなものだ。
「大地の咆哮」杉本信行著(PHP研究所) ISBN:4569652344
チャイナスクールの外交官が記した、本音の中国分析と日本外交論。
実は中国というテーマは、人によって好悪の感情が強すぎる気がして、気になりつつも食わず嫌いできたのだが、知人に勧められて本書を読んでみた。
著者は部下の自殺、そして自身の病に直面して一線を離れた元上海総領事。意外に内容は暴露的ではないから、事件の真相のほのめかしを期待すると、ちょっと裏切られる。
むしろ前段として、著者が若い頃、「何の気なしに」選んだ語学研修先での不自由な暮らしや、鮮烈な平和友好条約交渉の記憶などが語られる。その長い実体験を通じて徐々に、国として、この「時としてやっかいな隣国」と付き合っていくしかないのだという全編を貫く姿勢が、真実味をもって迫ってくる。それはもしかすると本来、好き嫌いとか、共感や反発とか、個々の事件の真相とかの問題ではない。
後段は現在、中国が抱える様々な矛盾や危機の解説で、非常に具体的でわかりやすい。特に、都市部にもみられる深刻jな経済格差や、進出企業が翻弄される資本主義の未熟さが印象的。2006年の大きな話題だった靖国問題への提言も明晰だ。
もちろん事態はそうそう簡単ではないし、刻々変化している。あくまでも本書の所見は2006年5月当時のものだし、他の見方ができる部分もあるだろうから、こうした出版に弊害を感じる人もいるかもしれない。だが、交渉当事者の冷静な発言が、死を覚悟した場面でしか表に出てこないとしたら、それこそが大変な損失に思える。(2006・11)
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