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December 30, 2006

「大地の咆哮」

中国の現状をたとえていえば、共産党一党独裁制度の旗の下、封建主義の原野に敷かれた特殊な中国的社会主義のレールの上を、弱肉強食の原始資本主義という列車が、石炭を猛烈に浪費しながら、モクモクと煤煙を撒き散らし、ゼイゼイいいながら走っているようなものだ。

「大地の咆哮」杉本信行著(PHP研究所) ISBN:4569652344

チャイナスクールの外交官が記した、本音の中国分析と日本外交論。

実は中国というテーマは、人によって好悪の感情が強すぎる気がして、気になりつつも食わず嫌いできたのだが、知人に勧められて本書を読んでみた。

著者は部下の自殺、そして自身の病に直面して一線を離れた元上海総領事。意外に内容は暴露的ではないから、事件の真相のほのめかしを期待すると、ちょっと裏切られる。

むしろ前段として、著者が若い頃、「何の気なしに」選んだ語学研修先での不自由な暮らしや、鮮烈な平和友好条約交渉の記憶などが語られる。その長い実体験を通じて徐々に、国として、この「時としてやっかいな隣国」と付き合っていくしかないのだという全編を貫く姿勢が、真実味をもって迫ってくる。それはもしかすると本来、好き嫌いとか、共感や反発とか、個々の事件の真相とかの問題ではない。

後段は現在、中国が抱える様々な矛盾や危機の解説で、非常に具体的でわかりやすい。特に、都市部にもみられる深刻jな経済格差や、進出企業が翻弄される資本主義の未熟さが印象的。2006年の大きな話題だった靖国問題への提言も明晰だ。

もちろん事態はそうそう簡単ではないし、刻々変化している。あくまでも本書の所見は2006年5月当時のものだし、他の見方ができる部分もあるだろうから、こうした出版に弊害を感じる人もいるかもしれない。だが、交渉当事者の冷静な発言が、死を覚悟した場面でしか表に出てこないとしたら、それこそが大変な損失に思える。(2006・11)

「大地の咆哮」

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「町長選挙」

「それで人間関係に悩むわけ? めでたい人だなあ」屈託なく笑って言った。「何をしたって一年と少しでアカの他人じゃん。ぼくならモヒカン刈りで役場に通うね」
「そんな、むちゃな」
「一度やってみたかったことをやればいいのよ。出向の恥はかき捨てって言うじゃん」
「言いません」

「町長選挙」奥田英朗著(文藝春秋) ISBN:4163247807

トンデモ精神科医、伊良部が活躍する痛快ユーモアシリーズ第3弾。

前2作同様、いかにも現実にいそうな現代人が様々な心の病を抱え、伊良部のもとを訪れる。4編を収録。表題作の「町長選挙」だけはちょっとパターンを変え、伊良部が心ならずも離島に赴く。そこでは実弾飛び交う、絵に描いたような「田舎選挙」が繰り広げられていた…。

永年の政敵同士、島を二分して角つき合わせるものの、キャスチングボードは老人会が握っていて、幹部たちもご老人にめっぽう頭が上がらない。そんなコミカルな構図のなかで、期待に違わず伊良部は脳天気な言動をとり、話をどんどんややこしくする。けれど、やっぱり真実を見抜いているのだ。それは、何が人を幸せにするのか、ということ。爽やかさが胸に残る、上質のエンターテインメント。(2006・11)

◎◎「町長選挙」 奥田英朗
「町長選挙」奥田英朗

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December 24, 2006

「いまこの国で大人になるということ」

人間は遺伝子だけの乗り物なのではない。文化を運ぶ情報、すなわち「ミーム」の乗り物でもあるのだ。乗り物というよりも、二種類の生地が織りなすタペストリーのようなイメージの方が近いかもしれない。(略)遺伝子とミームのギャップ。二十一世紀に生きるぼくたちは、このはざまで右往左往している。

「いまこの国で大人になるということ」苅谷剛彦編著(紀伊國屋書店)ISBN:4314010053

社会学、経済学、生物学など気鋭の識者16人が、現代ニッポンの大人になることの困難さを論じる。

だいたい1960年前後の生まれで、雑誌などで活躍する論者がきら星のごとく揃い、同一テーマで執筆しており、視点のバリエーションが豊富だ。ニート対策や晩婚化などについては、社会問題としての議論が一巡した感があってさほど新鮮ではないし、著者それぞれが末尾に発する若者への励ましやメッセージには、気恥ずかしい感じも受ける。

しかし景気がよくなったからといって、「個人の気の持ちよう」といった構造は、そうそう簡単にすっきりするものではない。改めて考え方を整理し、なにがしかヒントを得られる一冊。(2006・11)

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