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November 11, 2006

「盗作」

じゃあその空白を、モノみたいに考えてみて。例えば、中身を飲み干したあとの瓶そのもの、借金そのもの、みたいに。

「盗作」伊藤たかみ著(河出書房新社)ISBN:4309015549

ミステリー作家の辻克巳は、深刻なスランプに陥る。書けない苦しさを抜け出そうと、彼の足跡をたどり始める。自らのペンネームの片割れで、予備校時代に命を絶った親友、カツミの最期の日々を。

これは「ノルウェイの森」なのか。1969年というキーワードや、「ポール死亡説」など繰り返されるビートルズのエピソード。そして「名前を盗む」という作家個人の体験とのシンクロも示唆される。

散りばめられた小さな謎は深まるばかりで、ひょっとしたら物語としての達成感は今ひとつかもしれない。核の一つになっている暴力のエピソードも、因果応報を語っているように感じられて正直、気が滅入るところもある。でも、死んだ者とか、そういう誰の心にもある消しがたい「空白」を、空白そのものとしてみつめていこうとする切実な思いは、しっかりと胸に残った。こういう書き下ろしを成し遂げるパワーに、感銘を受ける。

それにしてもビートルズというバンドは、なんて豊かなイメージをはらんでいるのだろう。時代を限定せずに通用する「古典ぶり」が、改めて見事だ。(2006・10)

■ 盗作 伊藤たかみ

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