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October 31, 2006

「赤い指」

 何とかしてやりたいと思いつつ、何も出来ない日々が続いた。諦めているのか、春美や政恵が泣きついてこないので、それをいいことに彼女らの苦労から目をそらしていた。

「赤い指」東野圭吾著(講談社) ISBN:4062135264

互いの関係が冷え切ってしまった前原家に起きる、ある事件。練馬署・加賀刑事の捜査で、崩壊と再生の一日が始まる。

テーマは親子。あえて例えれば、導入は重松清のような深い闇。そして終盤は、横山秀夫のような劇的展開をみせる。
題材はひとつの事件、流れる時間もほんの二日だ。民家と公園、病室という舞台劇のように限られた空間に、それぞれの身勝手さと、そこに至る個人史を詰め込んだ筆力はさすが。

クライマックスはかなり強引な気がする。そのせいか、この一冊を完成した物語として味わうというより、何か別の物語の助走となる、そんな感触をもった。安らぎと幸せの象徴である、「父が残した古い畳」が哀愁を誘う。(2006・10)

赤い指 東野圭吾
赤い指

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October 14, 2006

「転生」

 これが自分の限界なのだろうか、と岬は思った。他人を信じられないから、自分を追い込んでしまうのだろうか。

「転生(てんしょう)」仙川環著(小学館文庫) ISBN:4094081178

その子はあなたの娘さんです。引き取ってもらいたいーー。ある日突然、眼前に乳児を置き去りにされたフリーライターの深沢岬。冗談じゃない、親はどこにいるんだ。必死で捜すうち、意外な事件に巻き込まれていく。

医療ミステリーの第二弾で、今回のテーマは生殖医療。現実にも何かと話題が多く、魅力的な題材だが、技術と法や社会常識との軋轢、先端医療を選ぶ人たちの心情などには、あまり踏み込んでいない。その分テンポがよく、真実を求めるヒロインと、ヒロインに迫る刑事のスリリングな追跡劇を、存分に楽しめる。

印象的なのは、ヒロインの性格設定だろう。野心に燃え、自分勝手で、周囲の人間を見下し利用する。言ってしまえばどうにも鼻持ちならない女。それだけに、終盤の激しい気持ちの揺れが、落差をもって胸に残る。ちょっと名作「女には向かない職業」(PDジェイムズ、ハヤカワ文庫)を思い出した。(2006・10)

転生

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