「赤い指」
何とかしてやりたいと思いつつ、何も出来ない日々が続いた。諦めているのか、春美や政恵が泣きついてこないので、それをいいことに彼女らの苦労から目をそらしていた。
「赤い指」東野圭吾著(講談社) ISBN:4062135264
互いの関係が冷え切ってしまった前原家に起きる、ある事件。練馬署・加賀刑事の捜査で、崩壊と再生の一日が始まる。
テーマは親子。あえて例えれば、導入は重松清のような深い闇。そして終盤は、横山秀夫のような劇的展開をみせる。
題材はひとつの事件、流れる時間もほんの二日だ。民家と公園、病室という舞台劇のように限られた空間に、それぞれの身勝手さと、そこに至る個人史を詰め込んだ筆力はさすが。
クライマックスはかなり強引な気がする。そのせいか、この一冊を完成した物語として味わうというより、何か別の物語の助走となる、そんな感触をもった。安らぎと幸せの象徴である、「父が残した古い畳」が哀愁を誘う。(2006・10)