「風に舞いあがるビニールシート」
垢抜けない服を着て、曲がり角をすぎた素肌をさらし、スケジュール帳には恐らくクリスマスの予定ひとつ記されていない。俗に言う負け犬を体現したようなニシナミユキが、ふいにこのとき、服だとか肌だとか特別な日の予定だとか、裕介が日頃他人を推しはかる上で基準としているものたちから突きぬけ、未知なる光を拡散した。
「風に舞いあがるビニールシート」森絵都著(文藝春秋) ISBN:4163249206
他人にはわかりにくいけれども、何か大切なものを心に抱いて生きる人たちをとらえた短編集。
収められた6作のうち2作目あたりまでは、ちょっときれい事過ぎる感じがした。プライドとか信念とか、受け止めるには直球過ぎる気がしていた。
それが三作目の「守護神」あたりから、作家のペースにはまり始める。社会人学生の間に伝わる「伝説」の学生、国文学のリポートを代筆してくれるニシナミユキ。その毒舌の気っぷの良さと、せっぱ詰まって代筆を頼みに行く主人公との心の交流が、何とも魅力的だ。
直球過ぎるものは、なかなか他人には理解されない。だけれど、ほんのふとした弾みで、その一端が通じ合う瞬間がある。仕事上のはかない接点であれ、悲しい別れを経た夫婦であれ…。構成にバラエティーがあり、筆力を感じる一冊。第135回直木賞受賞。(2006/8)
<超オススメ>『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都 (文藝春秋)
風に舞いあがるビニールシート、森絵都
風に舞いあがるビニールシート 森絵都
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私は誰も愛したことがない。
男性とおつきあいした経験はあっても、「そこに愛があるのかい?」と少し昔のドラマの台詞みたいなことを問われると、「あるよ」と断言できる自信がない。
過去の恋愛は終わったことだ。今更... [Read More]
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装画はハヤシマヤ。装丁は池田進吾(67)。
1990年「リズム」で第31回講談社児童文学新人賞受賞デビュー、第2回椋鳩十児童文学賞も受賞。「宇宙のみなしご」で第33回野間児童文芸新人賞受賞、第42回産経児童出... [Read More]
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風に舞いあがるビニールシート森 絵都 / 文藝春秋(2006/05)Amazonランキング:位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog
<人生に向き合う姿が読者の胸を熱くさせる完成度の高い短編集。>
別冊文藝春秋に連載されてたものを単行本化したもの。
全6編からなるが、ひとことで言えば人生の喜怒哀楽が詰まった作品集と言えそうだ。
近年、別冊文藝春秋に連載された作品で直木賞を射止めるケースが非常に多い。
『星々の舟』、『邂逅... [Read More]
» 風に舞いあがるビニールシート 森絵都 [今更なんですがの本の話]
森絵都さんの最新作『風に舞いあがるビニールシート』です。
ひとつの事にすべてをかけている人々。その頑張る姿や晴れやかさが心に残る一冊でした。
ちなみに6つの短篇が収められています。
特に国連難民高等弁務館事務所・UNHCRに勤める女性がかつて夫だった男....... [Read More]
はじめまして。トラバありがとうございます。
長編にできそうな題材をぎゅっと短編にしたような印象でした。
並べられた順番で、印象が変わる事ってありますね。
2作目まではきれい事、に感心しました。
これからも、ご訪問、コメント、トラバお気軽にどうぞ。
Posted by: 藍色 | September 18, 2006 06:03 PM
COCO2さん、こんばんは♪
TBありがとうございます。
おひさしぶりですがお元気でしょうか?
この作品、本当に喜怒哀楽が詰まっていて楽しめますよね。
楽しめるというより考えさせられるという感じかな。
長編を6冊読んだような気にさせられるボリューム感溢れる読み応え十分な1冊だと思います。
次作も待ち遠しいですよね。
お時間ありましたら第6回新刊グランプリに1票投じていただけたら嬉しく思います。
Posted by: トラキチ | September 18, 2006 09:04 PM