「三番手の男」
こういう武士たちに対し羽柴秀吉が明快な解説を加えた。
「殿(信長)のご方針は、一所懸命の古い考えをぶち破り、新しくわれわれの考えを展開させようとお企てになっているのだ」
「新しい価値観とは何ですか」
そうきく部下に秀吉はこう答えた。
「文化だ」
「三番手の男 ーー 山内一豊とその妻」童門冬二著(日本放送出版協会) ISBN:4140054867
歴史に学ぶ処世術などで定評ある作家の山内一豊論。
時に史料をひもとき、時に郷土史家らの説を取り入れながら、信長の政策や、秀吉の組織運営術などを読み解く。例えば信長の先見性。国土は限られているから、論功があった武士らへの恩賞を従来の「土地至上主義」から切り離そうとし、それが茶の湯など文化への傾倒につながったのだという。記憶に残る挿話が満載だ。
そんなきら星のような武将の側にいて、肝心の主役である一豊の人物像は、なんだか影が薄い。自らの分を知り、妻を愛し、戦さに明け暮れながら戦さの非道を嫌う。欲の無さは歯がゆいほどだ。
しかし読む進むうち、その姿がいつの時代にもいる大多数の、誠実な働き手の生き方に重なっていく。だから、一豊と戦国の妻たちの安寧を願う思想は、時を超えて郷土に根付いたのではないか、という解釈は、ちょっと強引なようにも思えるけれど、何とも爽快だ。(2006/9)
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