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August 09, 2006

「女たちは二度遊ぶ」

「並んでまでラーメン食べたいと思う?」
 彼女がぽつりとそう言った。
 僕が何も答えないでいると、「私ね、列運がないの」と彼女が笑う。
「列運?」とぼくは訊いた。
「そう。列運。私が並ぶと、銀行でも駅でも、たちまちその列だけ動かなくなるの」と彼女は言った。

女たちは二度遊ぶ(吉田修一著)角川書店 ISBN:4048736825

名手と呼ばれる作家の、女をめぐる11の短編集。

たいがいは「ぼく」が、過去を振り返って語る形式だ。行きずりだったり、ほんの短期間の付き合いだったりして、しかも目の前からあっけなく姿を消してしまった女たちの思い出。そして小さな後悔めいたものを綴る。

細部が実に、生々しい。部屋のユニットバスが、並んだ化粧品のせいで百貨店の一階みたいな匂いに満ちていたりする。細部を描くということは、それだけ忘れられない女、ということなのだろうか。読んでいくうちに、忘れられないだけの理由が、「ぼく」の「現在」にある気がだんだんしてくる。その、決して語られない現在が、読み手のイマジネーションを刺激して心地よい。

細かいことだが、主人公の通っている大学とか、短い字数の中にところどころディテールを書き込んでいるのが、絶妙にドラマ性を高めていると思った。(2006・7)

読書日記 女たちは二度遊ぶ
<面白い>『女たちは二度遊ぶ』 吉田修一 (角川書店)

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