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May 13, 2006

「だからこそライターになって欲しい人のためのブックガイド」

 ただし、ライターには行ったきりで戻ってこないは許されない。どこまで奥へ進み、どこで原稿用紙に引き返すか。向かっていく力を同じくらい、そこから引き返す力も必要なのである。

「だからこそライターになって欲しい人のためのブックガイド」田村章、中森明夫、山崎浩一著(太田出版)ISBN:4872332024

現役ライターが明かす、作家でも評論家でもエッセイストでもない、ライターという職業の方法論と、身の処し方。

先達の仕事を連ねたブックガイド。その前段にある著者たちの対談が、率直な語り口で魅力的だ。初版1995年の出版界を背景にはしているが、時代を切り取る発想法や、ライターが書くものは「作品ではなく商品」だ、というこだわりが意味するところなどは、現在に通じる。
雑誌の連載や単行本、ルポ、広告コピー、リライト、ノベライズ…。言及されるジャンルの広さは、ライターという存在の不確かさ、そして、したたかさを感じさせる。田村章は言わずと知れた作家、重松清の筆名の一つ。永江朗オススメの一冊。(2006・5)

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May 08, 2006

「感染」

あの時、調べた血液の実験用のシートには、妙な位置に肝炎ウイルスの存在を示すバンドがあった。そのウイルスの大きさから考えると、あり得ない位置にごく薄い色がついているような気がした。

「感染」仙川環著(小学館文庫) ISBN:4094080465

ウイルス研究者の葉月は最近、外科医の夫の心が自分から離れつつあると感じ、恐れていた。そんな時、夫の前妻との間の子が誘拐される…。

子どもの移植を巡る医療サスペンス。個人的には、命を扱う新技術には、相当の慎重さが求められると考えているが、そうした論議はともかく、医の進歩を願う作家の真摯な思考と、それを謎解きと結びつけた着想が、このエンターテインメントを骨太にしていて、好感がもてる。
主人公の女性が、研究者にとって恵まれた資質であるはずの、自らの冷徹さに悩むという設定も魅力的。そういう彼女の煩悶が、終盤で語られるテーマ、すなわち医療とは例え基礎研究であっても、人と向き合うことから始まるのだというテーマと、うまく呼応しているのではないか。ミステリーとしては、もう少しテンポがあっても、と思うけれど。第一回小学館文庫小説賞受賞。(2006・5)

仙川環著『感染』

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