「ポーの話」
「そうだな。犬じじのいうとおりだ」
ポーは大きくうなずき、
「じゃあさ、ほんとうのつぐないって、いったいどういうのだろう?」
真っ赤なたき火の光を受けながら、犬じじはまぶしげに笑った。そして、新たに注いだコップの中身を一気に干した。
「みんなそいつを、一生かけてさがすんじゃないかね。泥のなかをのたくるみたいに」
「ポーの話」いしいしんじ著(新潮社) ISBN:4104363014
街を流れる泥川で、「うなぎ女」に育てられた少年ポー。下流へ、そして海へと続く冒険と成長。
430ページの長編に、猥雑なイメージを満載したファンタジー。いしい作品ではお馴染みのことだけれども、濁流の底や廃棄物処理場の大穴など、ポーがたどる道程は刺激的だ。特に今回は、豪雨シーンなどのスケールの大きさと相まって、明瞭に大人向けと意識される点が画期的なのではないか。
知らずに人を傷つけ、また、はっきりと知りながらも罪を犯してしまう、愚かで欠けたところのある人物が大勢登場する。それはデフォルメされているけれども、多かれ少なかれ誰の記憶のなかにも棲んでいるかつての自分だ。それでも「生きているうちが償い」だから、皆、懸命に生きていく。文字通りに読んでいて息苦しくなるような、切ない終盤を経て、読者は静かで圧倒的な、生命のつながりを見る。決して読みやすい作品ではないかもしれないけれど、胸に残るものは豊かだ。(2006・2)
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» 「ポーの話」いしいしんじ [本を読む女。改訂版]
ポーの話発売元: 新潮社価格: ¥ 1,890発売日: 2005/05/28売上ランキング: 11,731おすすめ度 posted with Socialtunes at 2006/01/30
新刊本のベストでちえこあさんがあげてくださった本。
いしいしんじさんの本はなんとなく買った「ぶらんこ乗り」が
手元にあるだけで、まだ読んだことはなかったんだけど、
図書館でみかけて、いい機会だからと手に取った。
4日かけて読みました。3部構成になってて、1部読むごとに
はああああ。ってなる... [Read More]
» ポーの話 [いしいしんじ] [+ ChiekoaLibrary +]
ポーの話いしい しんじ新潮社 2005-05-28
うまくあらすじとかが書けません。タイトルどおり、これは、ほんとうに、ただ、ポーの話。
「うなぎ女」の子ども、ポー。ポーは、ちいさな子どもです。まだ何も知らない男の子です。ほんとうの悲しみも、罪悪感も知らない。たいせつなものが何なのか、つぐないとは何なのかもわからない。天真爛漫で、それゆえにとても残酷で。白でもあり黒でもある。そんなポーの成長物語…なんて言葉ではくくれないような、くくりたくないような。深く深く、何かを問い続ける、探し続ける物... [Read More]
» ■ ポーの話 いしいしんじ [IN MY BOOK by ゆうき]
ポーの話いしい しんじ新潮社 2005-05-28by G-Tools
また、不思議な本を読んでしまったぞ・・・。
大きな泥の川が中心を流れ、たくさんの橋がかかる町。川に近い下の方と、水害の少ない上のほうとで、歴然とした経済格差と差別のある町。そんな町で、ポーは、泥の川の岸辺に住みつく「うなぎ女」たちを母として育ちます。長い時間、泥に潜っていられるという特技を持っています。
「うなぎ女」たちの、ポーや、川に対する愛は深いです。彼女達は、難しい事など何も言わないし、ポーにほとんど何も教... [Read More]
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