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December 18, 2005

「日本郵政」

「小泉政権vs郵政族」という視点からは政権の華々しい勝利に映らなくもない郵政民営化だが、視点を「小泉政権vs郵政官僚」に変えた途端、郵政官僚たちの圧勝なのである。

「日本郵政」町田徹著(日本経済新聞社)ISBN:4532351766

2005年の政治状況の最大テーマ、郵政民営化の背景を丹念にたどり、「私的独占」につながる問題点を鋭く指摘。
「公益」と「効率」、そして「競争」の意味。巨大国営組織の変革は、私たちに国のかたち、経済のかたちに関わる様々な問題を投げかける。それにしても、なぜ、多くの優秀な人々が関わり、様々な言説が長いあいだ積み重ねられてきて、こうした結論に至ってしまうのか。そのからくりを解き明かす、豊富なエピソードが印象的だ。例えば、政治家が指導力を発揮するとき、その背景には本人の長い議員生活ばかりか、世襲による前代からの経緯までも横たわっているのかもしれないということ。あるいは、交渉ごとで「巻き取り」と呼ばれている、賢いけれど誠実さに欠ける言動が、ときには関係者の間に修復不可能なほどの亀裂をもたらし、政策の行方を左右するということ…。
現在進行形の事柄という難しさは当然あるのだろうが、だからこそ今、読み応えのあるルポルタージュである。(2005・12)

読書日記 日本郵政―解き放たれた「巨人」

December 06, 2005

「震度0(ゼロ)」

 大地なんて脆いもんだ……。
 警察組織も同じだと思った。日頃は「一枚岩」を装っているが、ひと揺れくればこのざまだ。

「震度0(ゼロ)」横山秀夫著(朝日新聞社)ISBN:4022500417

大震災の朝、人望厚いN県県警幹部が姿を消した。失踪か、事件か。組織内部の暗闘が始まる。
舞台劇のような筆運びで、幹部同士の裏工作や駆け引きが続く。組織を守るためと自分に言い訳をしながら、その実、男たち、妻たちを突き動かすのは見栄と
保身、権勢欲だ。エゴならエゴでいい。悲しいのは、知力と権謀を駆使して上手に立ち回れば立ち回るほど、虚しさだけが手のひらに残るという事実だ。かなり長く重苦しさが続く展開ゆえか、ファンの採点には比較的辛いものが目立つようだが、希望について、決して多くを語らない、これもまた横山ワールドなのだろう。(2005・12)

読書感想文【震度0】
◎「震度0」 横山秀夫 朝日新聞社 1890円

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December 04, 2005

「食品の裏側」

 このミートボールは、それまでの私にとって誇りでした。
 本来なら使い道がなく廃棄されるようなものが食品として生きるのですから、環境にもやさしいし、1円でも安いものを求める主婦にとっては救いの神だとさえ思っていました。私が使った添加物は、国が認可したものばかりですから、食品産業の発展にも役立っているという自負もありました。
 しかし、いまはっきりわかったのは、このミートボールは自分の子どもたちには食べてほしくないものだったということです。

「食品の裏側」安部司著(東洋経済新報社)ISBN:4492222669

食品添加物を扱う商社の敏腕営業マンだった著者が語る食品加工のからくり。
見栄えが良く、安い食品をいかにして生み出すか、その驚くべき手法が次から次へと明かされる。それが身近なスーパーの棚の裏で起きているということに、まず衝撃を受ける。しかし忘れてならないのは、消費者も常識を働かせれば、「こんなはずがない」とわかるはずだということだ。それなのに、少しでも見栄えがよく安いものに手を伸ばしてしまう。都市に住み、忙しい日常を送る多くの一般消費者にとって、いますぐ添加物と決別するという選択肢は、非常に非現実的だということも、著者はよく知っている。だからといって知らなくていいということにはならないのだ。(2005・11)

December 03, 2005

「あの人と和解する」

私は「わかる」ということは「分ける」ことだと思っている。つまり、わかるということは「違いを分けて、明らかにする」ことなのである。

「あの人と和解する」井上孝代著(集英社新書)ISBN:4087203115

ノルウェー生まれの平和学者の理論「トランセンド法」を応用し、臨床心理士の著者が仲直りへの道を解説する。
実際に相談を受けているという、親子や同僚などとのいさかいの例が具体的。著者がいう和解とは、白黒をつけたり、逆に妥協や我慢でうやむやにすることではなく、互いの違いをわかって共感すること。単なるノウハウ本ではない。身近な人間関係への向き合い方は、国家間の関係にも通じる社会の基礎だからだ。民俗学者、宮本常一が対馬の村で記録した「寄り合い」という古来の知恵が、トランセンド法に通じるという記述が興味深い。さて、あなたは誰と和解したいだろうか。(2005・11)

「白の鳥と黒の鳥 」

先週、いい雨の日と悪い雨の日、あたしはベランダにコップを出しといて、後で飲んでみた。いい雨はうまい、冷やっこい。悪いのは身体が重くなって、そう、奥にこびり付く。

白の鳥と黒の鳥 」いしいしんじ著(角川書店)ISBN:4048735748

「物語の魔法つかい」、いしいしんじの短編集。
ファンタジーや小話や、幅広い手法を見せつけつつ、あっという間に読み手を引き込んでしまう。長編では、物語のうねりのなかに目立たないように忍ばせてある毒や不気味さが、短編になると素早く効いて、ぴりりと辛い。そして巻末に至り、「太ったひとばかりが住んでいる村」まで読み進むと、何ともあたたかい余韻が胸に残る。「生と死が、日常のあらゆるところで隣り合っているという意味においてなら、天国に極めて近い場所だったとはいえる」。悲しくて、ひどく滑稽だけれど、そここそが自分の居場所なのだと知り、覚悟を決めたときに初めて手にする、無上の喜び。(2005・11)

白の鳥と黒の鳥/いしいしんじ

「働きすぎの時代」

男女の働きすぎに関連していま一つ指摘すべきは、共働きの増大による「カップル労働時間」(夫婦の合計労働時間)の増大と、それにともなう職場生活と家庭生活における「タイム・デバイド」(時間格差)の拡大である。

「働きすぎの時代」森岡孝二著 (岩波新書)ISBN:4004309638

企業社会をみてきた経済学者が、世界を覆う「働きすぎ」の構造に迫る。
全国紙の読者投稿から海外の文献までを幅広く引用しており、働くことを取り巻く環境の変化をわかりやすく整理できる。国際競争やネット経済の広がり、そして雇用の非正規化。特に、必死に働いてどんどん消費する人々の「競争心理」こそが、誰か別の人の長時間労働を導くという働きすぎの連鎖を指摘しているくだりが興味深い。人を働きすぎに追い込む要因は今や、単純な企業の責任に帰せるもので
はなく、いく層にも重なり絡みあっているのだ。
巻末で個人や労組、政府に向けて、働きすぎに歯止めをかける方策を提言しているが、それを読む限り課題はあまりにも多いと言わざるをえない。著者が触れているような、ワークライフ・バランスの達成を真剣に考えなければ、やがて経済、社会の持続性が脅かされるであろうという意識を、どれほど多くの人が共有できるか。そこが意識の転換への第一歩なのかもしれない。(2005・11)

森岡孝二「働きすぎの時代」(岩波新書)

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