「白の鳥と黒の鳥 」
先週、いい雨の日と悪い雨の日、あたしはベランダにコップを出しといて、後で飲んでみた。いい雨はうまい、冷やっこい。悪いのは身体が重くなって、そう、奥にこびり付く。
「白の鳥と黒の鳥 」いしいしんじ著(角川書店)ISBN:4048735748
「物語の魔法つかい」、いしいしんじの短編集。
ファンタジーや小話や、幅広い手法を見せつけつつ、あっという間に読み手を引き込んでしまう。長編では、物語のうねりのなかに目立たないように忍ばせてある毒や不気味さが、短編になると素早く効いて、ぴりりと辛い。そして巻末に至り、「太ったひとばかりが住んでいる村」まで読み進むと、何ともあたたかい余韻が胸に残る。「生と死が、日常のあらゆるところで隣り合っているという意味においてなら、天国に極めて近い場所だったとはいえる」。悲しくて、ひどく滑稽だけれど、そここそが自分の居場所なのだと知り、覚悟を決めたときに初めて手にする、無上の喜び。(2005・11)
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