「九代正蔵襲名 」
一番辛かったのは、出逢ったときのこぶ平の冷ややかな目だった。
「お前のオヤジと約束した」とは言えない。
尊敬する小三治さんが、ある時、「こぶ平はいいです」と僕に言った。
たしかにこぶ平は良くなっていた。でも、三平との約束は「誉めない」なのだ。
「九代正蔵襲名 」林家正蔵著(近代映画社)ISBN:4764820331
2005年春に大名跡を襲名した九代正蔵の、インタビューとエッセイ。
ゆかりの人々のはなむけの言葉に、一人の花のある芸人と、伝統の芸を盛りたてようとする気概が満ちている。特に泣かせるのが永六輔。父、三平から生前「こぶ平を絶対に誉めないでくれ」と頼まれ、律儀に約束を守ってきたが、「……正蔵なら誉めてもいいのだろうか。」。精進の人、正蔵。今は子どもの表現がチャーミングだと思うけれど、中野翠が書くように、人の世の暗さも描けるのだと思うと楽しみだ。披露目の手拭いのデザイン解説や、歴代正蔵伝の寄稿なども楽しい。(2005・11)
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