「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
次の日になって、熱はだいぶ下がったけどボクはまだ、寝たままだった。うとうとしながら昼過ぎに目が醒めた時には、パチパチと聞き慣れた音がする。
横を見ると、オカンが横浜のさなえおばちゃんと花札をしているのである。
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」リリー・フランキー著(扶桑社)ISBN:4594049664
コラムニストやアートディレクターとして活躍、バラエティー番組などにも顔を出している著者の、家族をめぐる自伝。
物心ついてから癌で母を看取るまでを、時系列で丹念にたどり、多くの読者に「今度の週末、実家に帰ろうか」と思わしめた、話題の感涙長編。私はバラエティーには不案内で、実物の著者のイメージはもっていなかったけれども、ユーモアが散りばめられた450ページをリズム良く読めた。印象的なのは、経済的な要素が物語で大きな位置を占めていること。少年時代の回想には、炭坑町の衰退が影を落としているし、フリーター時代のすさまじい困窮は、おそらくこの時期、日本を覆っていたバブル経済の虚飾の陰画なのだろう。中心テーマである母親との関係でも、「買ってもらったもの」が随所に書き込まれており、それが極めて個人的なストーリーに確かな手触りを与えている。
自分が恥をかくのはいいが、他人に恥をかかすなとしつけたオカン、大学時代風疹で倒れたとき、朝一番でかけつけてくれたオカン、働きづめに働いて、残った蓄えは一人息子の卒業証書だけだというオカン。ありがたいものです。
それにしても、どうしてこうも多くの読者が「確実に」泣きたがっているのだろう…(2005・10)
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』 笑っちゃって泣けちゃって…
「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」 リリー・フランキー
2006年本屋大賞受賞。ドラマ化も。
本屋大賞は『東京タワー』