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August 23, 2005

「街角の事物たち」

ここで1から5までの順番は、より重要と思われる破調のパターンから、そうでないものへの順番になっていると読んでほしい。Aの増音破調でいえば初句増音がもっとも裏切り感を惹起しやすく、二句増音はもっともその効果がうすいということである。

「街角の事物たち」小池光著(五柳書院)ISBN:490601044X

今年茂吉賞、迢空賞をダブル受賞した歌人の評論、エッセイ集。

恥ずかしいが短歌をほとんど読んだことがない。ところが無知は無知なりに楽しめる平易さ、明晰さ。著者は理科、数学の高校教師でもあるそうで、教える立場からくる優しさなのだろうか。男性限定の教室を開いている世間との向き合い方も、何か気になる。私ごときが近寄れる世界ではないと痛感しつつ、もっとエッセイを読んでみたいような…(2005・8)

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August 21, 2005

「花まんま」

やがてチェンホは、私に向かって手を振ったかと思うと、屋根から屋根へと飛んで遠ざかっていった。その姿はトカビというより、ランニングシャツを着たピーターパンのようだった。

「花まんま」朱川湊人著(文芸春秋)ISBN:4163238409

路地裏を舞台にした奇想譚6編。1963年生まれの著者が、万博前後の大阪下町を見事に蘇らせる。ほろりとさせる人情話あり、落語調あり、毒を含んだファンタジーあり、と仕立てはバラエティーに富んでいて達者。何より「うまい」と思わせるのは、大人が子供時代を回想する構図をとっていること。だから、みずみずしい感性を保ちつつ、実際には目の前の情景が示す庶民の暮らしの影の部分、理不尽な死や貧しさや差別をすべて了解して語っていて、深みがあるのだろう。第133回直木賞受賞。(2005・8)

「花まんま」朱川湊人
花まんま

「友がみな我よりえらく見える日は」

「仕事にならなくても、電話があるだけでうれしい。自分が忘れられてないって思えるからね」そういうと、長沼は白手袋で電話機を拭いた。

「友がみな我よりえらく見える日は」上原隆著(幻冬舎アウトロー文庫)ISBN:4877288139

都市に生きる市井の人々を題材にした短編ノンフィクション集。何かに傷つきながら、とぼとぼと歩いていく日常を、静かに描く。コラムとしての完成度が高く、よくできたフォークソングのよう。短いやりとりの中に、著者は自尊心の小さな破れ目と、それを繕う一本の糸を描き出す。(2005・8)

「友がみな我よりえらく見える日は」上原隆

「魂萌え!」

実は、あたしも最近なのよ、開き直ったのは。こんな派手な服を着てみたり、赤い口紅付けたり、いろいろ闘ってるんだなと自分でも思うんですよ。あたし、何と闘ってるのかしらね。

「魂萌え!」桐野夏生著(毎日新聞社)ISBN:4620106909

突然夫が病死し、日常の急変に翻弄される59歳・専業主婦の心の行方。
子供や友人との気持ちの行き違いが細々と描かれる。そのささやかさと、派手な書名や装丁のアンバランスが新鮮。どういう経路をたどるにせよ、人生の後段で一人になることは、ありふれた日常なのだという現実、そして、これからのシニア一人ひとりの選択が、社会で一つの大きな流れを作っていく、その近未来をリアルにとらえる作家の鋭敏な感性に驚く。婦人公論文芸賞受賞。(2005・8)

「魂萌え!」桐野夏生
桐野夏生『魂萌え!』 還暦を越えたオジサンのための「愛妻家入門』
魂萌え! 桐野夏生
『魂萌え!』桐野夏生

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