「夜のピクニック」
なぜか、その時、初めて歩行祭だという実感が湧いた。こうして、夜中に、昼間ならば絶対に語れないようなことを語っている今こそがーー全身痛みでボロボロなんだけど、顔も見えない真っ暗なところで話をしながら頷いているのが、あたしの歩行祭なのだと。
「夜のピクニック」恩田陸著(新潮社)ISBN:4103971053
全校生徒が年一回、夜を徹して80キロを歩き通すイベント、歩行祭。高校生活最後の特別な一夜に、貴子が決意していたこととは…。
一両日の行程を時間を追って描くという制約のなかで、貴子と融、二人の主人公の思いを交互に描き、ゴールに向かって徐々に重ね合わせていく。物語巧者の面目躍如というべき一作。こだわりを乗り越えていく主人公の成長談だけでなく、二人を取り巻く友人たちそれぞれの、人間を理解しようとする心の動きが爽やかだ。甘すぎるとも言えるけれども、案外人生の入り口というのはこういうものではないだろうか。吉川英治文学新人賞、本屋大賞受賞。(2005・5)
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