「太りゆく人類」
世界のどこをさがしても、肥満に免疫のある文化はない。世界保健機関(WHO)は、過食こそが世界で「もっとも急速に広がる栄養失調の一種」であると警告する。
「太りゆく人類」エレン・ラペル・シェル著(早川書房)ISBN:4152085096
米国のジャーナリストが追及する肥満の実情。
冒頭に描かれる「胃のバイパス手術」の模様がショッキングだ。人工的に食欲を抑えようとする施術は、暴力さえ感じさせる。それほどに、人と太り過ぎとの戦いの最前線は熾烈ということか。肥満遺伝子の存在を突き止めようとする科学者の競争や、南の島に押し寄せる飽食の現実など、一見ばらばらなルポが共通して描き出すのは、人を必要以上に太らすことも、必死に痩せようとすることも、様々なビジネスと密接に結びついているという現実だ。個人の努力でライフスタイルを修正することは、容易ではない。小手先の医療費削減の論議をするなら、何か先に、もっと抜本的に考えることがあると思わせる一冊。栗木さつき訳。(2005・5)