「かわうその祭り」
大宅さんは収集家の鑑だよ。自分の収集品の無限の価値を知っていた。無価値といわれる物の真の価値を
「かわうその祭り」出久根達郎著(朝日新聞社)ISBN:4022500123
「獺祭(だっさい)」とは、収集品などを広げて悦に入る様子を、捕らえた魚を岸に並べる獺(カワウソ)になぞらえた言葉。正岡子規は「獺祭書屋主人」と号していたーー。そんなタイトルをはじめとして、蘊蓄が満載のコレクター小説。
満州にまつわる偽切手、怪しげなフィルム、大宅文庫の古雑誌。前半はテンポのいい酔狂列伝だ。それがクライマックスに向けては、国家の闇を発掘するミステリーへと転じていく。手際は鮮やかだ。
印象的なのは、闇そのものの種明かしというより、読者を種明かしに導いていく「古いものたち」の力のほうだろう。80、90年代の日本社会との対比で、ネットなどで簡単に手に入る文化や知識に対する、著者の深い疑念がにじむ。新聞連載の単行本化にあたり、最終章を加筆。(2005・3)
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