「となり町戦争」
「え~、この〔偵察員記録表〕は二枚複写式になっておりますので、この用紙に毎日、あなたの出勤時、退勤時にとなり町を通過した際の偵察情報を記録して、え、いただくことになります。ですから大事なことは」
係長は言葉を切ると、同じく役場の封筒に同封されていた黒い下敷きを取り出した。
「必ずこの下敷きを一日分の記録表の下に挟んで記録するということです。そうしないと、さらに下の紙にまで複写されてしまいますので」
「はあ」
「となり町戦争」三崎亜記著(集英社)ISBN:4087747409
「となり町との戦争のお知らせ」。会社員の「僕」はひとり暮らしのアパートの郵便受けに、自治体広報を見つける。やがて適地偵察に任じられた「僕」が見たもの、見なかったものとは。
身近なのに全く現実感がない戦いという、巧みな設定の話題作。印象的なのは、体験に裏打ちされていると思われる「役所仕事」の細部だ。公共事業の予算策定、近隣への説明会。意味を問わなくても、決められたことを着実に遂行する者によって、ことは進んでいく。その不気味さがリアルだ。第17回小説すばる新人賞受賞。(2005・3)
« 「対岸の彼女」 | Main | 「かわうその祭り」 »
« 「対岸の彼女」 | Main | 「かわうその祭り」 »
Comments