「対岸の彼女」
「私はさ、まわりに子どもがいないから、成長過程に及ぼす影響とかそういうのはわかんない、けどさ、ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」
「対岸の彼女」角田光代著(文藝春秋)ISBN:4163235108
子持ち主婦の小夜子は、「親子カプセル」の日常を変えようと再就職を決意。同じ年でちょっと危なげな独身経営者、葵と出会う。
67年生まれの著者は絶妙に、同時代の女性の閉塞を描く。主婦とキャリアウーマンという対比は、あくまで舞台装置に過ぎない。二人の心の叫びを通して語られるのは、何不自由ない生活にひそむ、「人とかかわること」の困難だ。普遍的だけれど、わざとらしくなりそうなテーマがすんなりと胸に届くのは、あわただしい保育園の送迎や、口さがない部下のうわさ話といった細部がリアルだからか。葵の少女時代と、現代が交互に語られ、見事にシンクロする構成も巧妙。132回直木賞受賞。