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March 26, 2005

「対岸の彼女」

「私はさ、まわりに子どもがいないから、成長過程に及ぼす影響とかそういうのはわかんない、けどさ、ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」

「対岸の彼女」角田光代著(文藝春秋)ISBN:4163235108

子持ち主婦の小夜子は、「親子カプセル」の日常を変えようと再就職を決意。同じ年でちょっと危なげな独身経営者、葵と出会う。
67年生まれの著者は絶妙に、同時代の女性の閉塞を描く。主婦とキャリアウーマンという対比は、あくまで舞台装置に過ぎない。二人の心の叫びを通して語られるのは、何不自由ない生活にひそむ、「人とかかわること」の困難だ。普遍的だけれど、わざとらしくなりそうなテーマがすんなりと胸に届くのは、あわただしい保育園の送迎や、口さがない部下のうわさ話といった細部がリアルだからか。葵の少女時代と、現代が交互に語られ、見事にシンクロする構成も巧妙。132回直木賞受賞。

ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何か
角田 光代『対岸の彼女』
対岸の彼女
対岸の彼女/角田光代

March 07, 2005

「『噂の真相』25年戦記」

もっとも、『噂の真相』の紙質は「中質のザラ」という種類だが、時代とともにだんだん需要がなくなり、生産じたいが中止となっていった。年々入手が困難となり最後にはアメリカから輸入した紙に頼っていたというのが”真相”である。

「『噂の真相』25年戦記」岡留安則著(集英社新書)ISBN:4087202755

「明るくスキャンダル」をモットーに、2004年3月の黒字休刊まで25年を駆け抜けた名物編集長の自伝的メディア論。
関心の持ち方から文体まで、雑誌イコール編集長ということを強く感じさせる一冊。そのスクープ力は「「噂の真相」トップ屋稼業」(西岡研介著、講談社)にも詳しい。反権力も風俗もごった煮で、雑誌はあくまで雑であるべきという思想、当初はコスト削減で選んだザラ紙の、「カストリ雑誌」の風あいにこだわり、最後はコストアップになっていたというエピソードが印象的。(2005/3)

「噂の真相」25年戦記

March 05, 2005

「明日の記憶」

ポケットの中に詰め込んでいた大量の紙切れが路上に散乱した。一昨日の会議の結果、昨日の連絡事項、今日すべきこと、会う人、時間、場所。あらゆることを書き記したメモだ。あわててしゃがみこみ、そのレポート用紙やコピー用紙や会議資料の切れはしを拾い上げる。自分の脳味噌をかき集めるように。

「明日の記憶」荻原浩著(光文社)ISBN:4334924468

広告会社の営業部長。もうすぐ娘が結婚する。ごく普通の幸せを生きていた主人公を襲ったのは、若年性アルツハイマー。
「自分もひょっとしたら」と思わせるアルツハイマーチェックのシーンが話題。アルツハイマーと言えば、倍賞美津子の演技が感動的だった松井久子監督の映画「ユキエ」(1997年)を思い出す。スロー・グッバイ。認知症(痴呆)という病いは、愛する人、そして自分自身との緩やかな別離だ。別れたくないのに別れなければならない。一つ一つのエピソードで丹念に描かれるそんな焦燥感が、なんともリアルで切ない。現実は静かに、自分という存在を裏切り続ける。そして迎えた寂寥の朝に、主人公は、そして読者は、決して、すべてを失うわけではないことを知る。山本周五郎賞受賞。(2005/3)

荻原浩
明日の記憶( 荻原浩)

「ストリート・キッズ」

「まず第一に、標的の靴を見るんだ、ニール。靴だ」何度目かの路上講習のときに、グレアムがニールに言った。「理由はふたつ。一、人込みの中でも、常に標的を見分けられる。二、標的が振り返っておまえを見ても、下を向いているから、おめめとおめめが合わずにすむ」

「ストリート・キッズ」ドン・ウィンズロウ著(創元推理文庫)ISBN:4488288014

元ストリート・キッズの探偵、ニール・ケアリーが活躍するシリーズ一作目。副大統領候補の娘の行方を捜して、ニューヨークからロンドンへ渡る。
とにかく盛りだくさんだ。車や稀覯本のうんちく、アクション、恋。それを一つにまとめているのは、不幸な生い立ちでひねくれているようだけど、実は心優しいニールの成長物語。その才能を見いだし、探偵術を仕込み、見守り続けるジョー・グレアムが魅力的だ。東江一紀訳。(2005/2)

ストリート・キッズ/ドン・ウィンズロウ/創元推理文庫
【映画】T3のニック・スタールがドン・ウィンズロウ原作「ストリート・キッズ」に出演

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