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January 23, 2005

「停電の夜に」

サリーをまとい、額に赤丸をつけて、じゃらじゃら腕輪をはめている女を見たことがないのだろうか。文句をつけるとしたら何に対してか。サリーの裾にこすられたとはいえ、いまだ足に消え残っている赤い染料は見えているだろうか。
ようやくミセス・クロフトが言いたいことを口にした。疑わしさとうれしさを等量に込めた、あの口調だった。
「完璧。いい人を見つけたね!」

「停電の夜に」ジュンパ・ヒラリ著(新潮文庫)ISBN:4102142118

インド系ピュリツァー作家の出世作短編集。
インド系米国人が主役の作品と、インドの住民のものとがあるが、共通した、普遍的な味わいがある。人生は苦い。どんなに近くにいて、どんなに長く共に時を過ごしても、人と人は必ずしもわかりあえない。だからこそ日常の、温かい偶然が心の隅を強く照らす。O・ヘンリー賞ほか受賞。小川高義訳。(2005/1)

『停電の夜に』

「ニート」

メニューにあまりにたくさんの品書きが並んでいると、ついついお店の「おススメ」を注文してしまうのと同じように、困った挙句、誰かが発するお決まりの情報源に、みんな飛びつく。多様化なんていっても、結局、多くが同じような選択をしている。そんな画一的な状況にちょっとでも疑問を感じてしまったが最後、こんなことでいいのかと悩み、選択できなくなる人も出てくる。そこからニートは生まれる。

「ニート―フリーターでもなく失業者でもなく」玄田有史、曲沼美恵著(幻冬舎)ISBN:4344006380

労働経済学者とフリーライターが、インタビューと考察で追いかける、働かず学ばない若者の実像。
40万人という数だけが問題なら、ニートはもっぱら経済やら政治やらが扱うべき問題だろう。しかし著者はむしろ、文学のような、哲学のようなテーマを問いかける。現代の経済や社会の状況が、まだ名前を持たない個人の心の中の「何か」と結びついて、今に至っている、そんな予感。職業教育の必要性などを声高に主張するだけでなく、もう少し、考える時間が必要だと思わせる一冊。(2005/1)

NEET

January 22, 2005

「陰の季節」

柘植を見上げた黛の瞳に、哀れみの色があった。階級が二つも下の、おそらく、退官のその日まで、弱小チームで球拾いを続けるであろう男の瞳に。
柘植は、紙ナプキンとレシートをさらって踵を返した。ジャズと、そして背後の瞳から一刻も早く逃げ出したかった。

「陰の季節」横山秀夫著(文春文庫)ISBN:4167659018

警察が扱う様々な事件の陰で、管理部門の人間が遭遇するもう一つの「事件」。
警察小説の名手の出世作となった短編集。殺人も盗難もなし。人事や監察や「議会対策」という、いわば日の当たらない職務の人物を主役に据え、緻密な心理サスペンスをつむぐ。組織で働くこと、報われず、踏みつけられることの苦さ。くすんでしまっているけれど、それでも捨てられない誇りが胸に響く。作家がこの鉱脈に行き当たるまで、7年かかっているということに敬服。松本清張賞受賞。(2004/12)

横山秀夫【陰の季節】

January 05, 2005

ノンフィクションでは

個人的に、本好き大賞!のノンフィクション編をメモしておきます。

「昭和史 1926-1945」半藤一利著(平凡社)
「野中広務 差別と権力」魚住昭著(講談社)
「年収1/2時代の再就職」野口やよい著(中公新書クラレ)

2004年は後半特に、仕事関係の本を読むことが多かったので、それ以外に読んだ本となると少ないのですが。

January 03, 2005

「犯人に告ぐ」

「これに対抗するにはどうしたらいいか。俺は考えた。そしてたどり着いた答えは……」
曾根は人差し指を立ててみせた。
「劇場型捜査だ」

「犯人に告ぐ」雫井脩介著(双葉社)ISBN:4575234990

子供を標的とする卑劣な無差別連続殺人犯が、報道番組に犯行声明を送りつけた。対抗すべく刑事、巻島はテレビカメラの前に立つ。

本題に入るまで70ページ、全編では360ページの長丁場をぐいぐい引っ張っていく。その秘密は、現実離れした舞台設定の驚きより、むしろ冷徹な心理描写の方にあるのだろう。あえて「対犯人」ではなく、捜査する側や報道する側の、いわば身内の駆け引きを主軸にした意外性が秀逸だ。

そして読み進むほどに、つい「これくらい許されるだろう」と思ってしまう人間の浅はかさ、「正義」というものの不確かさが浮かび上がる。多くのミステリー好きが絶賛の一冊。大藪春彦賞受賞。(2004/12)

☆追記 2007年10月豊川悦司主演で映画化。

ポン柑

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