「よかった。けっこう気になってたんだ。もちろん僕にはいくつか問題があるけど、それはほら、あくまで僕自身の内部的な問題だから、そんなにやすやすと人目につかれると困るんだ。とくに夏休みのプールサイドなんかでさ」
マリは確かめるようにもう一度相手の顔を見る。「内部的な問題はとくに目につかなかったと思う」
「安心した」
「アフターダーク」村上春樹著(講談社)ISBN:4062125366
深夜のデニーズで本を読む少女。眠っている、その姉。すれ違う男女が、都会で朝を迎えるまで。
人の世に、そして読む者の心の中に、光と闇がせめぎ合う。やがて静かに希望へと向かうように思えるけど、確信は持てない。コンビニの棚に置き去りにされた携帯電話のエピソードが印象的だ。悪意の不意打ち。ちょっと「ささやかだけど、役にたつこと」(レイモンド・カーヴァー著、「Carver’s Dozen」中公文庫所収)を思い出した。闇を生きていくには、何か大事なことを思い出す、そんな気持ちが大事なのかも知れない。
デビュー25周年の書き下ろし長編。これほど多くの人がブログに感想を書き付ける日本人作家がほかにいるだろうか。ストーリーより前に、独特の、翻訳のような会話をうれしく感じてしまう。同時代の読者として、25年という月日に、何やら感慨を覚えた一冊。(2004/10)
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akira的はみだしノート: アフターダーク06
おおた葉一郎のしょーと・しょーと・えっせい:ハルキストの読むアフターダークは、