「ロシヤにおける広瀬武夫」
広瀬は一メートル七五もあるから、日本人としては大男のほうである。決してたちうちできぬほどの小男と思われてはいなかったが、相手の虚をつくその機転、大の男を手玉にとって投げつけるその武勇が、一座の人々に驚くべき日本人という印象を深くきざみつけた。広瀬びいきのコヴァレフスキー少佐夫人などは大喜びで、いつまでも手を叩いている。
ーーヒロセ君に乾杯!!
という声がどこからかきこえて、一同の盃に酒はまたなみなみとそそがれた。片隅に立ってじっと見ていたアリアズナ・ウラジーミロヴナの目は輝いた。
「ロシヤにおける広瀬武夫」島田謹二著(朝日新聞社)ISBN:4022591579 ISBN:4022591587
比較文学者、島田謹二が書簡などを元に丹念に描き出した評伝。
日露戦争に従軍し、旅順に散った広瀬中佐。無骨な明治の英雄は意外にも、ロシアに6年間駐在した国際派エリートであり、その青春には国境を超えた恋もあった。日本が上り坂だった時代の若者が、異文化体験をへて成長する姿。そして、国家の対立に翻弄されるロマンス、、。知人の奨めで読み、爽やかさと一抹のむなしさを覚えた思い出の上下巻。いまではオンデマンド出版になっているようです。(1987/1)
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