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July 28, 2004

「しりとりえっせい」

ということは、「眠ってはいけない」度が高ければ高いほど、うたたねの快感は増すことになる。
国会でよく議員が眠っているが、あれなんかはさぞや気持ちがいいに違いない。
居眠り運転をしているドライバーの、死の直前の眠りというのはもっと気持ちいいだろう。
あるいは旅客機の操縦をしながら眠ってしまうとか、宇宙ロケットの中でうたたねしてしまうとか。
麻薬なんか足元にも及ばぬ快感にちがいない。

「しりとりえっせい」中島らも著(講談社文庫)ISBN:4061855581

作家、劇団主宰者である著者が1990年に夕刊紙で連載したエッセイ105編。「カタルシス」「スロー・バラード」「どら息子」…。脈絡無く、しりとりでつないでいく「お題」を料理する。
素材は案外まっとうで、酒場談義風の味付けがニヤリとさせる。知的で、よれよれで、何やら悲しい「らも節」をもう少し読みたかった。(1994/10)

pata: 『今夜すべてのバーで』追悼・中島らもさん

トラックバックで読書三昧

July 24, 2004

「平成三十年」

「日本は横町の隠居ですか」
パーソナル電機相談役の和田守彦も笑い出した。
「パイプラインや飛行機だけじゃありませんよ。情報でも日本の発信は少ないですよ」
テレビ放送会社会長の九鬼孝も私語に加わった。
「そら大変や。横町の隠居ならせめて噂話ぐらいは詳しないとあかんのに」
長谷川がおどけた口調でみなを笑わせた。

「平成三十年」堺屋太一著(朝日文庫)ISBN:4022643242 ISBN:4022643250

2018年。日本経済は高齢化と資源危機で国際競争力を失い、円安、物価高にあえいでいる。産業情報相、織田は大胆な改革論を看板に、天下分け目の選挙を仕掛けるが…。
「団塊の世代」の名付け親が描く、近未来シミュレーション小説。新聞連載が1997年から98年、閣僚就任期間を経て、2002年に大幅加筆して単行本となった。しかし「あとがき」によれば、経済社会の描写はほとんど手直しの必要がなく、2004年初頭の文庫化に至っては、誤植訂正程度にとどまったという。それほどまでに、当初予測した「何もしなかった日本」が、現実となりつつあるというわけだ。脱出策として著者は、戦国武将になぞらえた登場人物たちを通じ、年来の持論を説く。すなわち抜本的な規制緩和、開国、官僚支配の打破。さて、私たちが選ぶ現実はどのようなものなのだろうと、思案を巡らさずにはいられない。(2004/7)

home&dry: 東大講義録

July 18, 2004

「図書室の海」

みんなで、夜、歩く。それだけのことが、なぜこんなに特別なんだろうね。
そうだね。ほんとだね。
明日は最後の「ピクニック」。どうしてピクニックの前の晩は、こんなにわくわくどきどきして、そしてちょっぴり憂鬱なんだろう。

「図書室の海」恩田陸著(新潮社)ISBN:4103971045

人気作の番外編などを含む短編集。時間と思いの連鎖を軸にした、不思議な手触りのSFやホラー。いつかまとめて読もうと思いながら、なかなか果たせてない作家だが、「本編」を未読の私にも十分楽しめた。あとがきで作品ごとに、着想を得た経緯や雑誌では没になったことなどが綴られていて、こちらも興味深い。(2002/6)

続かざる日々のひとりごと(HSJ.jp): 木曜組曲(恩田陸)、読了。

「日本三文オペラ」

男たちは確信にみちて夜と物に反抗していた。
「ごついことをやりはりまんなあ……」
「ポウ助、さっさとはたらけ」
それからあとはなにがどうなったのかわからない。フクスケは仲間とまじって必死になって煉瓦をとりのけた。

「日本三文オペラ」開高健著(新潮文庫)ISBN:4101128022

終戦後、大阪のど真ん中に、空襲で廃墟と化した兵器工場跡があった。この国家の闇にいつしか、浮浪者、密入国者らが巣くい、食うために勝手にスクラップを掘り出し始める。人呼んで「アパッチ族」。取り締まる警察と壮絶で陽気な攻防を繰り広げ、猥雑に生にこだわる。スピード感ある大阪弁で、秩序への疑念と、アウトローの悲しさを描き出す快作。作家の取材力が見事。(1980/2)

長靴を履いた開高健

「ロシヤにおける広瀬武夫」

広瀬は一メートル七五もあるから、日本人としては大男のほうである。決してたちうちできぬほどの小男と思われてはいなかったが、相手の虚をつくその機転、大の男を手玉にとって投げつけるその武勇が、一座の人々に驚くべき日本人という印象を深くきざみつけた。広瀬びいきのコヴァレフスキー少佐夫人などは大喜びで、いつまでも手を叩いている。
ーーヒロセ君に乾杯!!
という声がどこからかきこえて、一同の盃に酒はまたなみなみとそそがれた。片隅に立ってじっと見ていたアリアズナ・ウラジーミロヴナの目は輝いた。

「ロシヤにおける広瀬武夫」島田謹二著(朝日新聞社)ISBN:4022591579 ISBN:4022591587

比較文学者、島田謹二が書簡などを元に丹念に描き出した評伝。
日露戦争に従軍し、旅順に散った広瀬中佐。無骨な明治の英雄は意外にも、ロシアに6年間駐在した国際派エリートであり、その青春には国境を超えた恋もあった。日本が上り坂だった時代の若者が、異文化体験をへて成長する姿。そして、国家の対立に翻弄されるロマンス、、。知人の奨めで読み、爽やかさと一抹のむなしさを覚えた思い出の上下巻。いまではオンデマンド出版になっているようです。(1987/1)

「ななつのこ」

けれど自分でも説明のつかない様々な思いが胸の内にうずくまっていて、お祝いの言葉よりも涙の方が先にあふれ出てしまったのだ。
嫌になるくらい、私は未熟だ。しかも未熟さを理由に大目に見てもらえる時代は、そろそろ頭の上を通り過ぎようとしている。これでもいつの日か、こんな自分を愛おしく振り返るときがやってくるのだろうか。

「ななつのこ」加納朋子著(創元推理文庫)ISBN:4488426018

短大生の駒子は衝動買いをした本「ななつのこ」に魅せられ、作者にファンレターを出す。そこから始まった手紙のやりとりを通じて、身近な事件が解決されていくと…。
多くの本好きが推薦している連作。ミステリーの中に劇中劇のように童話が織り込まれており、構成は緻密だ。随所に、ごく普通の19歳が感じる成長のきしみとも言うべきものを描き、みずみずしい感触。私は友人の薦めで手に取り、失礼ながらやや子供向けかと思って読み始めたが、先入観の愚かさを恥じた。結末も爽やか。菊池健さんの表紙イラストが美しい。鮎川哲也賞受賞。(2002/5)

葉兎の本棚: ななつのこ/加納朋子

UK-taniyama's cocolog: 「ななつのこ」加納朋子読了

July 03, 2004

「女たちよ!」

たとえば味噌汁を飲むお椀などは、絶対に厚手のものでなくてはならぬ、と思う。牛乳なんかも、薄手のグラスに注いで飲むよりは、瓶からじかに飲んだほうがよほどおいしい。
酒の場合も、いや、酒の場合はちょっとむつかしい。大ぶりのぐいのみで飲みたい、という気分の時もあるし、きょうは絶対に小ぶりの、薄手の伊万里の杯でなければならん、という日もある。

「女たちよ!」伊丹十三著(文春文庫)ISBN:4167131013

俳優、映画監督である著者の名随筆。
スパゲティの食べ方から、「ねえ、あたしのこと好き?」という愚問への対処法まで。はるか昔の学生時代、友人にすすめられて読んで、スノッブとはこういうことか、と感心した覚えがある。「男に食事に誘われて、飲み物をきかれ、あたし、ジュースかコーラ、なんて言うな!」といった怒りにニヤリとする。
つまりは好き嫌いを語っているわけだが、その語り口がおしゃれで、30年も前の著作とは思えない。巻末には「配偶者を求めております」という広告風の箇条書き。いわく「ごく贅沢に育てられたひと」「ただし貧乏を恐れないひと」…。このサービス精神は、遺作となってしまった三谷幸喜企画協力「マルタイの女」(1997)まで尽きなかった。(1982/10)

2005年3月に新潮文庫に再録。ISBN:410116732X

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