「幻夜」
「ねえ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ」美冬がいった。深刻な口調だった。
意味がよくわからず雅也は彼女を見た。
「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」
「幻夜」東野圭吾著(集英社)ISBN:4087746682
悪夢のような阪神大震災。その現場で、青年、雅也はある女と出会う。それは果てない夜の始まりだった…。
「白夜行」から4年半、またしても、これでもかと畳みかけられる数々の罠。500ページを超える長編で、多くの伏線を張りながら破綻無くつむいでいく筆力は、並大抵でない。
わけても、これほど悪魔的な魅力を持つ人物を造形しながら、決して多くを説明しない、その抑制が見事。容易に理由が語られないからこそ、生き抜いていくことの不幸、不条理が際だつのだろう。さらなる続編に期待。(2004/6)