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May 13, 2004

「昭和史 1926-1945」

(略)そうまでしてやっと手に入れた満州は、まさに日本が守り抜くべき生命線である、というわけです。これが今後、日本の大スローガンになるんですが、おもしろいもので、うまいスローガンがあると国民の気持ちが妙に一致して同じ方向を向くんですね。

「昭和史 1926-1945」半藤一利著(平凡社)ISBN:4582454305

「ノモンハンの夏」(文春文庫)などで知られる作家の昭和史講義。
なぜ日本は310万人もの尊い犠牲を払って「負け戦」をしたのか。作家が強調するのは、筋金入りの主戦論者に対する、後付けの「責任追及」ではない。実は政府の要職にも軍部にも、事前に十分な情報と見識を持った人物がいた。こうした良識派が、最後の最後で抵抗しきれなかった事実。事が起こる前の「いまそこにある責任」が果たされなかったことにこそ、憤りの矛先は向かう。組織防衛という身勝手な心理や、対処療法の誘惑はなかったのか。それを許してしまったのは人々の、「根拠無き熱狂」ではなかったのか… 語りおろしで読みやすいが、重いテーマについて、ひとつの見方を示してくれる。(2004/5)

或る日あるとき: 戦いすんで、日が暮れて

May 06, 2004

「コインロッカー・ベイビーズ」

スタジオからの帰り道、二人は西新宿の十三本の塔のまわりをグルグル回った。点灯された窓ガラスは巨大な象嵌となって空へ伸び、先端で点滅する赤いライトが塔の正常な脈拍を示している。カラギ島にダチュラを探しに行こう、キクはアネモネに言った。ダチュラって何? アネモネは塔と塔の谷間に車を止めた。キクの目に塔の先端で点滅する赤い灯が映っている。東京を真白にする薬だ、キクはそう答えた。

「コインロッカー・ベイビーズ」村上龍著(講談社文庫)ISBN:4061831585 ISBN:4061831593

生まれてまもなくコインロッカーに遺棄されたキクとハシ。双子の兄弟として生きのびた二人の破壊の衝動が、暗い近未来の東京を、南海の海底を駆け抜ける。
独特の猥雑で過剰なイメージ。救いようがなく破滅的とも読める。しかし、なによりも物語の持つエネルギーにぐいぐい引き込まれる。常に時代の空気を鋭くとらえる作家だけれど、不思議な生命力がいかんなく発揮された点で、最高傑作では。体力があるうちに読みたい。(1985/2)

葉兎の本棚: コインロッカー・ベイビーズ(下)/村上龍

www.yamiyo.info─書評空間─: コインロッカー・ベイビーズ (村上龍) 講談社文庫

May 05, 2004

「ふりだしに戻る」

ぼくは、ごく短い時間、部屋となかの家具を見ていた。もう朝の二時近い--一八八二年一月五日の午前二時が近づいているのだ、と心に思った。とつぜん、実験が現実に始まったのだという実感が湧いてきた。

「ふりだしに戻る」ジャック・フィニイ著、福島正実訳(角川文庫)ISBN:4042735010 ISBN:4042735029

広告会社のイラストレーター、サイモンはある日、政府関係者だという男から、秘密プロジェクトへの参加を持ちかけられる。プロジェクトとは選ばれた現代人を、「過去」のある時代に送り込むことだった。
時間旅行をテーマにしたファンタジーの名作。良くできた映画のように、百年前の冬のニューヨークが目の前に立ち現れる。見方によっては、この上なく後ろ向きな物語だろうけれど、読むほどに古びた校舎を再訪したときのような、切ない思いが胸に降り積もる。(1991/12)

円太亭麺人あれこれ: 「ゲイルズバーグの春を愛す」を読んだ

「プラハ旅日記」

市民会館の天井はとても高いのです。そこから、スーッ、スーッと繊細な細い電線が5本おりていて、空間にまるで五線譜を引いたようなその先に、ちいちゃなガラス電球が4個と真ん中にちょこっと大きいのが1個ついている。(略)裸電球が5本並んでいるといえばそうなんだけど、もっと線がピシッと硬質で、すごくモダンできれいだった。

「プラハ旅日記」山本容子著(文化出版局)ISBN:4579303938

憧れの街、プラハの旅の記録。
緑の表紙のノートブック。赤いページに色鉛筆でしたためたスケッチなどがそのまま載っていて、銅版画家の発想に直接接する楽しさがある。薄手なので実際にプラハを観光したとき持参して、とても豊かな気持ちになりました。(2002/8)

安ワインを楽しむ: 2002年のヌーボー【プロの道具屋さん】

「血族」

私の名は、こうやってつけられた。これでわかるように、母は、ひらめきの鋭い女だった。大胆な、思いきりのいい女だった。
しかし、はたして、それだけのことで、斬新奇抜な名がつけられるだろうか。私の疑念は、ずっと、いまにいたるまで解けないままでいる。

「血族」山口瞳著(文春文庫)ISBN:4167123045

名随筆家の、ミステリー要素もある私小説。
作家は母のことを、そして父のことを、ずっと考え続けている。同じところをぐるぐる回るように、微にいり細をうがってエピソードを語る。ほとんど一生をかけた長い長い物語。だけれど、やがて謎が解けた時にしみいる感動は、誰の胸にも宿っているとてもシンプルな思いだ。菊池寛賞受賞。(1998/2)

ぶくぶく BOOKS 2: 礼儀作法入門

May 04, 2004

「人生張ってます」

サイバラ 又借りはイカンですよ。お金は一ヵ所から借りて、全力で踏み倒さないと。
うさぎ おおーっ!
サイバラ 全力で借りて、全力で踏み倒せ。

「人生張ってます」中村うさぎ著(小学館文庫)ISBN:4094024263

最近、「女神の欲望」(テレビ東京、金深夜1時30分)も話題らしい、「ショッピングの女王」の語りおろし対談集。
副題が「無頼な女たちと語る」。対談相手である岩井志麻子、西原理恵子ら、強烈な個性が炸裂する。現代知的女性の無頼の形を知り、爆笑して、何やらすかっとできる一冊。(2001/10)

passageblog パッセージブログ: 『欲望の仕掛け人』(中村うさぎ・日経BP社)

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