「巨怪伝」
大沢が、開けると大混乱になります、怪我人がでるかも知れません、と顔を青ざめさせて言っても、正力は、混乱したっていいじゃないか、と平然と言い放った。
これが正力流の発想だった。大混乱のなかをテレビ塔にのぼった体験は、必ず見物客に鮮明な印象を残す。
「巨怪伝」佐野眞一著(文藝春秋)ISBN:416349460X
テレビ、プロ野球、原発。戦後日本の一断面を演出した正力松太郎の軌跡を、彼をとりまく影武者たちの素顔と共に綿密に描く。
おそらくは「カリスマ」と並ぶ著者の代表的な長編ノンフィクション。多くの人物が陰に日向に関わり、劇的な昭和史の一ページとなった「天覧試合」からも、このスケールの大きな現実主義者の執念が浮かび上がる。細かい字で600ページ、年譜、文献、索引も20ページ以上。圧倒的な細部の積み重ねの向こうに、登場人物たちの情念を導いた私たち「大衆」の姿が、おぼろげながら見えてくる。(1996/8)
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