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April 28, 2004

「東京アンダーワールド」

記録的なスピードである。
終戦のわずか三日後、アメリカの先発隊が日本の土を踏む十日も前に、日本初のヤミ市の広告が新聞に載ったのだ。

「東京アンダーワールド」ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳(角川文庫)ISBN:404247103X 

「菊とバット」などで知られる著者が、焼け跡の六本木でピザレストラン「ニコラス」を開いたイタリア系米国人ニコラ・ザコペッティを軸に、戦後日本の裏社会を活写する。力道山、ロッキード事件など昭和史の陰にはいつもアウトロー達のうごめきがあった。(2002/5)

鐵鋼新報: 今ひとつの『ヤクザ・リセッション』

「うしろの正面だあれ」

通りを歩いていき、ふとん屋さんの角を右にまがると、二軒目が、わたしの家です。
一日のうちで、夕ご飯が一番いいおかずでしたから、遊びに次いでたのしみでした。
卓袱台のまん中におかれた、大きなどんぶりには、へたを取ったソラ豆や、枝豆をあまからに煮たものが入っています。豆を食べながら、皮に残る煮汁をチューッと吸い込みます。

「うしろの正面だあれ」海老名香葉子作(フォア文庫)ISBN:432301077X 

故林家三平夫人で林家一門のおかみさんが昭和初期、東京の下町で過ごした子供時代を生き生きと綴る。ノンフィクションだが、短いエピソードの連なりは小学校高学年向けに語りかける童話のような趣だ。
今ではレトロと呼ばれてしまうような日常。そのあまりに普通の家族の思い出が、その後幼い著者を襲った戦争の残酷を際だたせる。(2004/4)

猫の夜会ライブラリー(night clowder library): 六人の会初の揃い踏み!川口落語会

April 19, 2004

「本当の戦争の話をしよう」

いろんな声が聞こえる。でもそれは人間の声じゃない。だってそれは山の中なんだものな。俺の言うことわかる? 岩だよ。岩が語りかけているんだよ。そして霧だ。

「本当の戦争の話をしよう」ティム・オブライエン著、村上春樹訳(文春文庫) ISBN:4167309793 

ベトナムに歩兵として従軍した作家の、0・ヘンリー賞受賞作を含む短編集。
ストレートな反戦とは少し違う。ときにはユーモアさえあるエピソードや、現実感がないほどに悲惨な体験。決して大きく振りかぶっていないけれど、狂気が静かに染み込む。訳者はあとがきで、「正直に言ってあまりうまい作家とは言えないかもしれない。(略)しかしそれにもかかわらず、ティム・オブライエンは訳者にとっては敬意を払うに値する数少ない現役作家のひとりである」と記す。それにしても人はいつまで、こんなことを続けるのだろう。(2001/8)

evergreen:世界のすべての7月(原題:『July,July』)

April 14, 2004

「絵描きの植田さん」

馴染みのないこれらの名前を植田さんは何度も読み返した。メリの知識にはもちろん、自分の絵のなかにこんなにも多くの生き物が描かれていたことに、少し驚いていた。
口に出して、スケッチブックの上の、草木の名をつぶやいてみる。

ユキフデ
たちつぼすみれ
ゆきのした

「絵描きの植田さん」いしいしんじ作、植田真絵(ポプラ社) ISBN:4591078523

不幸な事故で、聴力と愛する人を失った画家。彼は、高原の一軒家に引きこもった…

雪と氷に閉ざされた村を思わせる、白い装丁が美しい。いつもながら優しく、それでいて骨組みのしっかりした物語に加え、今回は素晴らしい絵でまた、泣かされる。生きる者それぞれの描く円が、いっとき重なり合う僥倖。(2004/4)

 「絵描きの植田さん」いしいしんじ/植田真 本を読む女。改訂版

April 13, 2004

「巨怪伝」

大沢が、開けると大混乱になります、怪我人がでるかも知れません、と顔を青ざめさせて言っても、正力は、混乱したっていいじゃないか、と平然と言い放った。
これが正力流の発想だった。大混乱のなかをテレビ塔にのぼった体験は、必ず見物客に鮮明な印象を残す。

「巨怪伝」佐野眞一著(文藝春秋)ISBN:416349460X 

テレビ、プロ野球、原発。戦後日本の一断面を演出した正力松太郎の軌跡を、彼をとりまく影武者たちの素顔と共に綿密に描く。
おそらくは「カリスマ」と並ぶ著者の代表的な長編ノンフィクション。多くの人物が陰に日向に関わり、劇的な昭和史の一ページとなった「天覧試合」からも、このスケールの大きな現実主義者の執念が浮かび上がる。細かい字で600ページ、年譜、文献、索引も20ページ以上。圧倒的な細部の積み重ねの向こうに、登場人物たちの情念を導いた私たち「大衆」の姿が、おぼろげながら見えてくる。(1996/8)

俺のDVD!ログ: 7/10 だれが「本」を殺すのか

「僕がテレビ屋サトーです」

僕が震える手でキューをだすと、まずジョンが、つづいてポール、リンゴ、ジョージと、あの4人が、つぎつぎとドアを開けて、姿を現した。鼻歌をハミングしながら……。

「僕がテレビ屋サトーです」佐藤孝吉著(文藝春秋)ISBN:4163655905

「アメリカ横断ウルトラクイズ」の名物ディレクターが綴った私的テレビ史。
歴史に残るビートルズ来日インタビューの「演出」にはじまり、90年代にメディアを席巻する娯楽ドキュメンタリー、情報番組まで。その作劇術をいかに生み出したか、垣間見させて興味深い。職人のプライドが時に強烈すぎる気がするけれども、ベテランと呼ばれるようになってからなお、ブームを巻き起こした「カルガモさんのお通りだ」「はじめてのおつかい」を作る、そのパワーに頭が下がる。(2004/4)

April 02, 2004

「4teen」

それでも春の日ざしとやわらかなむかい風のなか、全身の筋肉を左右交互につかって坂道をじりじりとのぼっていくと、突然お腹の底から笑いたくなってくる。
勉強のこと、高校のこと、社会にでてからの仕事や恋愛なんかのこと、普段は口にしない不安のすべてを、思い切り笑い飛ばしたくなったのだ。

「4teen」石田衣良著(新潮社)ISBN:4104595012

テツローは14歳。高層マンションともんじゃ焼きの町、東京・月島で男子4人組が恋や冒険を繰り広げる。
「池袋ウエストゲートパーク」の作家の連作。こんなに次々事件が起きたら中学生活も楽しいだろう。少し賢くて、とても率直な、後味のよい青春ストーリーだ。ジャニーズ主演でドラマか映画にしてほしい。直木賞受賞。(2004/3)

pinkcosmos: 『電子の星』

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