「博士の愛した数式」
「いいや、ここにあるよ」彼は自分の胸を指差した。「とても遠慮深い数字だからね、目に付く所には姿を現わさないけれど、ちゃんと我々の心の中にあって、その小さな両手で世界を支えているのだ」
「博士の愛した数式」小川洋子著(新潮社)ISBN:410401303X
1992年3月、家政婦の私は64歳の数学者の家に通い始める。不運な事故の後遺症で、彼の記憶は80分しかもたない。やがて私の10歳の息子、ルートを交え3人の交流が始まる。
博士は毎朝、見慣れない自分と向き合うという過酷な運命を背負い、世捨て人のようにして生きている。けれども数学について語る言葉は美しい。虚数、友愛数、完全数…。
靴のサイズにも江夏の背番号にも、美がある。そのことを受け止める気持ちがあれば。記憶の消滅に負けない、一瞬の愛情を確信させる一編。ちょっとぶっきらぼうな「私」の語り口が心地よく、6月2日、タイガース戦観戦の高揚も印象的。読売文学賞小説賞、本屋大賞受賞。(2004/2)
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